防災システム研究所山村武彦プロフィール阪神・淡路大震災東日本大震災災害現地調査写真レポート
「在宅避難生活訓練のすすめ」/山村武彦

平成28年熊本地震(撮影:山村)/左の家は損壊して住めないが、右の家には住民が暮らしていた
避難所はいっぱいで、家が壊れていない場合は電気、ガス、水道が止まった中でも自宅で暮らすことになる

★車中泊
 左の写真は平成28年熊本地震時、グランメッセ熊本の駐車場で車中泊をされていたご家族の一コマです。話を聴かせてもらうと「家は壊れなかったのだが、停電、断水だし、備蓄もしていなかったので物資が配給になるというここにきたのです。ここにはトイレもあるし、救援物資が届くので」とおっしゃっておられた。ただ「車の中は狭くてきつくてよく眠れない、体調が心配」とも。実際に車中泊していた人たちのうち30人以上避難生活中に体調を崩し関連死と認定されていました。痛ましい限りです。水、食糧、トイレなど一定の備蓄があれば、たとえインフラが止まっていても車中で暮らすより、自宅の方がよく眠れると思います。
 
★在宅避難(在宅避難生活)
 毎年、避難場所の小学校や中学校への避難訓練を行っていると、大地震発生時は避難場所に行かなければならないと思い込んでいる人がいます。これは誤った認識です。もちろん、津波、洪水、土砂災害、大規模火災、避難勧告などが出た場合、及び危険区域にいる場合は広域避難場所などに避難する必要があります。しかし、家が壊れなかった人や危険区域以外の住民や、身の安全が確保できた元気な人は避難所ではなく自宅で暮らすことになります。どこの市区町村であって、全ての住民を指定避難所に収容できるスペースがないからです。
 ひと口に避難場所といいますが、実は大規模火災などから一時的に避難する「広域避難場所」や自宅の近くに一時的に集合する「一時(いっとき)避難場所」「一時集合場所」、さらには災害などにより自宅が損壊し自宅に住むことができない人を収容する「指定避難所」等があります(地域によっては名前は異なりますので、確認してください)。災害時に家を失った被災者が一定期間生活する場所が「指定避難所」と呼ばれるものです。この指定避難所で誰でも暮らせるわけではありません。自治体が定める一般的な避難所収容基準では「指定避難所に収容する人は、家が壊れた人、避難指示、避難勧告対象地区の住民、津波、土砂災害、洪水、ガス漏れ、大規模火災など危険な区域、あるいは二次災害のおそれが地域の住民」となっています(地域ごとにニュアンスが異なります)。
 つまり、避難所収容基準に満たない住民は、電気、ガス、水道、電話などの社会インフラが途絶した中、自宅で暮らすことになります。それを「在宅避難」「在宅避難生活」と呼んでいます。 災害時、小中学校の避難場所・避難所は、住民たちへの防災情報発信基地などの「防災拠点」として「在宅避難者」をフォローする仕組みづくりが大切です。

★安全な場所に住む(する)防災
 避難場所はホテルでもなければパラダイスでもありません。災害直後だから仕方ないのですが、トイレ、寝る場所、寝具、給食など、避難所の多くが劣悪環境と言っても過言ではありません。阪神・淡路大震災(1995年)では、死亡者6,434人のうち、圧死などによる直接死が5,512人、それ以外の原因で震災後2カ月以内に死亡した人たち「震災関連死」は922人に上ります(総死亡者数の14.3%・出典:神戸市保健福祉局健康部)。極寒の中、厳しい環境下でインフルエンザが蔓延、せっかく大地震から生き延びた避難者が感染し肺炎などで次から次へと死んでいったのです。その中には孤独死や絶望し仮設住宅で自殺した人も含まれています。避難所というのは、本当は市区町村が率先して住民を避難させるような場所ではありませんし、避難者全員に住み心地の良い環境を提供することなどできはしません。これからは、避難所環境のさらなる整備改善と併せ、避難しなくても済むように、建物や室内の耐震対策を進める「安全な場所に住む(する)防災」への意識啓発推進が重要となります。


★在宅避難生活訓練のすすめ
 耐震性の高い建物や鉄筋コンクリート造りのマンションやビルだったら、一瞬にして全壊する危険性は極めて低いと思われます。こうした安全性の高い建物にいたら、避難するより建物の中にいた方が安全な場合も多いと思います。例えば、首都直下地震が懸念される東京都の場合、被害想定で最悪の場合、建物損壊数304,000棟と試算されています。東京都統計局のデータでは都の世帯総数は6,382,049世帯とされています。1棟1世帯とは限りませんので一概には申し上げられませんが、あえて乱暴な単純計算をしてみますと損壊率が4.7%としたら、残り約95%の世帯というか住民は、自宅で暮らすことになるのです。つまり、大規模地震発生時、様子を見るため一時的に避難しても、その後、大部分の住民は避難所収容基準に満たないため、避難所に避難せず家で暮らす事になるのです。そのため「避難所体験訓練」の前に、電気、ガス、水道、電話を一日停め(停めたと想定し)て生活する「在宅避難生活訓練」をお勧めします。
 停電でトイレが真っ暗、冷蔵庫から水が出てきた、換気扇が停まるとトイレ臭が家中に籠るなど、様々な現象が見えてきます。そして、何をどれだけ備蓄したらよいかが分かります。よく、水食糧の備蓄は3日分などといいますが、3日間で全ての地域や世帯に物資が行きわたるような災害はさほど大きな災害ではありません。小さな災害は備えなくても何とかなります。災害に備えるということは「大規模災害」に備えることです。道路、鉄道などの主要交通機関は途絶し流通混乱が発生し、インフラ復旧もすぐには期待できません。大規模災害に備えてせめて1週間分程度の備蓄が必要となります。そうした備蓄用品だけで暮らしてみる「在宅避難生活訓練」を家族、地域、マンションなどで実施することを強くお勧めします。
 こうした実践的な防災を私は「スマート防災」と名付けました。詳しくは2016年3月に出版された拙著「スマート防災」をご参照くだされば幸甚です・

「災害から命を守る準備と行動・スマート防災」山村武彦著(ぎょうせい)
はじめに、身の丈に合ったスマート防災
第1章 防災はおとこ(漢)のロマン
第2章 スマート防災訓練
第3章 スマート地域防災
第4章 自治体のスマート防災
第5章 個人と組織のスマート防災
第6章 企業のスマート防災
第7章 ドローンで防災革命
第8章 先人の知恵「災害を忘れないための四つの物語」

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