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平成16年7月、新潟・福井豪雨・9月29日台風21号の教訓

死者・行方不明21名
 昼間の洪水にもかかわらず、多くの死者を出したのはなぜか。行政と地域の防災力・危機管理対応能力の問題点は何かを探り、平成16年新潟・福井豪雨から学ぶべき教訓を考察する。防災アドバイザー山村武彦
 避難勧告・避難指示の根拠法令
 市町村長は災害などで住民に危険が迫っていると判断した場合「避難勧告」又は「避難指示」を出すことになっている。その根拠法令は、災害対策基本法第60条(市町村長の避難の指示 等)である。「
災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、人の生 命又は身体を災害から保護し、その他災害の拡大を防止するため特に必要がある と認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の居住者、滞在者その他の者に 対し、避難のための立退きを勧告し、及び急を要すると認めるときは、これらの 者に対し、避難のための立退きを指示することができる」また、被災によって、市町 村が事務を行なえなくなったときは、都道府県知事が代行する(同条5項)。市 町村長が避難の指示ができないときや市町村長から要求があったときは、警察官 または海上保安官が指示できる(第61条)。
 「避難勧告」と「避難指示」の違いは、居住者に対し立ち退きを勧告するか指示するかの違いで、「指示」は「勧告」より「急を要する」とされるる場合であるから「勧告」より「指示」の方がより重く、より命令に近いとされている。
 
避難勧告・避難指示 発令のタイミング
 洪水や土砂災害に対する危険度目安は、地域ごとに河川ごとに過去の災害事例を基準とする場合が多い。山間地・流域・周辺地域における過去の一定時間内における降水量と河川の増水相関関係、また、降水量と過去発生した急傾斜地の崩壊事例などにより危険度などを推定する。それを元に市町村の防災関係者(防災会議、災害対策本部など)が判断し、危険地域を特定して「避難勧告」「避難指示」を出す事としている。その基準は多くが過去の災害事例を拠りどころとしているように思われる。実はそこに大きな落とし穴がある。これは日本の防災・危機管理に共通した死角なのだ。新潟気象台によれば、7月13日に新潟市内2箇所で記録された24時間降水量は、いずれも過去25年間最高の421ミリと356ミリで、一時間降水量も最大62ミリと63ミリに達していた。時間当たり40ミリを超えると傘は役に立たず、60ミリ以上になると車のワイパーは不能になる。「想定外の降水量だった」と関係者は口をそろえる。問題は避難勧告・避難指示の基準にもある。この災害を機に2005年に国からガイドラインが出されるが。この時点では多くの自治体が過去の事例に基づいて避難情報を出していたようである。仮に避難情報が出すにしても、深夜とか豪雨の中であれば避難途上の危険が増大する。少しでも早く、昼間の内など避難情報のタイミングにも気配りが大切である。
 
高齢者に避難情報は・・・
 亡くなった高齢者の多くは自宅または付近で犠牲になっている。その方々の近所の人に聞くと「避難勧告」など知らなかった。といっている。三条市では五十嵐川の決壊も濁流が来てから始めて知った人が多かった。豪雨、締め切った家の中、耳の遠い高齢者が多かったことなどが重なったせいか、広報やサイレンがほとんど聞こえなかったという。三条市を例に取ると、13日午後5時に亡くなった78歳の男性は要介護者で、就寝中に水死。14日午前5時に水死した75歳の女性は逃げ遅れて自宅が濁流に流され、遺体は近くの空き地で発見された。14日午前9時に自宅で水死した76歳の女性は濁流に追われ二階に逃げたが逃げ切れなかった。このように三条市で亡くなった7人はほとんど自宅及び自宅の周辺で亡くなっている。それらはすべて三条市五十嵐川の堤防決壊によるものと推定されている。
 五十嵐川左岸の決壊は7月13日午後1時10分ごろ。三条市はその1時間半前の午前11時40分までに避難勧告を発令し、市の幹部は「やれることは全てやった」とコメントした。それほどの危機に陥っていることを知らず、犠牲になった要介護者や高齢者を想うと痛ましい限りである。高齢化社会における避難のあり方、発災前、発災時の「避難勧告」「避難指示」の伝達方法など多くの課題が突きつけられている。

 
自助と近助
 
河川流域に暮らすもの、海岸線に暮らすもの、火山周辺に暮らすもの、それぞれが自然から多くの恩恵を得ている。その反面洪水、津波・高潮、噴火災害などに襲われることもある。こうした災害における自衛手段は、日ごろから自分の住む地域特性や危険の兆候などを自分で学び、自分で情報を集めておく必要がある。行政が作成している「ハザードマップ」等も含め万一災害に発展する可能性があるとしたら、どの時点で家族を避難させなければならないかを予め見極めておく必要があるのだ。避難勧告、避難指示を待ってからでは逃げ遅れる場合もある。自分の命、家族の命は他力本願でなく、自分で守る自助「早期自主避難」も重要。そして、向こう三軒両隣で助け合う「近助」である。自治体から適切に避難情報が出されるとは限らない。河川流域であれば、気象情報に注意し、洪水警報が出るような時間当たり降水量、降り始めからの継続降水量などを確認して隣近所で話し合って早期自主避難が大切。避難するときは向こう三軒両隣にも声を掛け、近くで助け合って避難してほしいと思う。

犠牲者発見状況