防災システム研究所山村武彦プロフィール阪神・淡路大震災東日本大震災災害現地調査写真レポート

 
新幹線内で襲われた時、身を守る知識と知恵
 文・写真:山村武彦
★頻発する新幹線内の凶悪犯罪
◆2018年新幹線無差別殺傷事件
 2018年6月9日22時ごろ、JR新横浜駅〜小田原駅間を走行中の東海道新幹線のぞみ(265号)12号車で、22歳の男が刃物を振り回し近くの席の女性2人に切りつけた。それを見ていた男性が暴漢に立ち向かったが、男性は死亡し女性2人も負傷した。逮捕された男は取り調べに「むしゃくしゃしてやった、誰でも良かった」といったという。現行犯逮捕されたのは自称愛知県岡崎市の無職小島一朗容疑者(22)。小島容疑者は刃渡り約30cmのナタと果物ナイフを事前に準備していた。凶行を止めに入り、犠牲となってしまった被害者男性は梅田耕太郎さん(38)。東大卒の将来を嘱望される好漢だった。女性たちを追いかける小島容疑者に敢然と立ち向かった梅田さんの勇気、高潔な正義感に深い尊敬の念を表します。ご家族ご友人のご無念と哀しみを慮り哀悼の意を捧げ、安らかなるご冥福をお祈りします。
◆2015年新幹線放火火災事件
 2015年6月30日午前11時半ごろ、JR新横浜駅〜小田原駅間を走行中の東海道新幹線のぞみ(225号)先頭1号車で、71歳の男が持ち込んだガソリンをかぶり火を着け焼身自殺を図り死亡。火は乗務員(運転士)が消火器で消し止めたが、女性1人が煙などを吸い込んで1号車デッキ付近で倒れ気道熱傷により死亡、26名が重軽傷を負った。犯人はガソリン7リットル入りのポリタンクを車内に持ち込んでいた。

窓は開かなない二重窓/火災時の避難は極めて困難
◆お寒い安全対策
 東京駅における東海道新幹線の乗車人員は1日平均43万人。ピーク時3分間隔で運転されている新幹線の人気は高い。在来線から乗り継ぎも良く手軽に乗れる新幹線。この利便性は何物にも代えがたい価値がある。
 その一方、新幹線は航空機と同じく通路も狭く窓も開かない密閉空間。その上7リットルものガソリン入りのポリタンクや刃渡り約30cmのナタが何のチェックもされずに車内に持ち込める。現在の新幹線は安全対策を犠牲にしての利便性である。私も矛盾を感じつつその利便性を享受している一人なので、あまり口幅ったいことは言えない。だからこそ国交省や運行会社だけに責を求めるのではなく、利用客として一緒に考えなければならないと思っている。
 隣国中国の新幹線(高鉄)では、乗車前に手荷物検査が実施されているし、フランスとイギリスの国境をつなぐユーロスターでも空港と同じ保安体制。また、韓国の高速鉄道には火災に備え、客室ごとに「窓ガラス割りハンマー」や「AED」が設置されている。
 日本では事件があるたびに新幹線の安全体制が検討されてきた。しかし、そのつど「多くのお客様一人一人の手荷物チェックは利便性を著しく損なうため、航空機のような検査は難しい」「保安体制を強化する」でお茶を濁してきた。その保安体制強化の主なものは防犯カメラ増設と見回りを増やすことだった。
◆警備員を常時配置すべきでは?
 東海道新幹線では通常は警備員が同乗しておらず、車掌と車内販売などを担当する「パーサー」と呼ばれる乗務員が不審者がいないかなど車内の見回りも担当している。今回、事件が起きた16両編成の列車では、車掌2人とパーサー2人の4人が乗務していた。今年の3月から「のぞみ号」と「ひかり号」に乗務する車掌を3人から2人に削減したばかりだった。乗務員削減は巡回強化とは逆行しているようにみえる。16両編成(N700系)で定員1323人・全長約400メートルを4人の乗務員が業務の傍ら見回り、犯罪を防止するのは極めて困難である。乗客も挙動不審者・不審物の警戒通報に協力すべきだがそれにも限界がある。専属の警備員を常時配置すべきではないか。安全のためなら利用者も喜んで費用負担に応じるものと思う。
 もし、全ての手荷物点検が物理的に難しければ、せめて抜き取り検査などはできないものか。ドイツの地下鉄には改札がないが、満員電車でも車内で私服係員の抜き打ち検札があり、違法悪質な乗客には衆人環視下で高額の罰金を科す制度がある。プライドが傷つけられるので強い抑止効果となっている。増加し続ける外国人観光客、東京オリンピックを目前にして、ハードターゲットだけでなく日常的社会システム(ソフトターゲット)におけるテロ対策や安全対策が今や国家の焦眉の急である。
◆客室内にも防犯カメラ
 従来は乗降口や通路付近だけに設置されていた防犯カメラ、2015年放火火災事件後に客室内にも設置(常時録画)されるようになった。防犯カメラは一定の犯罪抑止効果と結果事象の検証には役立つが、残念ながら犯罪防止の決め手にはならない。それは今回の事件が如実に物語っている。

 JR東海は6月13日、東海道新幹線で乗客の3人が殺傷された事件を受けて、警察官や警備員による駅や車内の巡回を増やす方針を明らかにした。金子慎社長は「警備のあり方について警察とも相談していく」と述べ、外部とも連携して安全対策に注力する考えを示した。


★新幹線内で身を守る知識と知恵
 凶器や危険物がノーチェックの新幹線に乗るには、一定の覚悟が必要。そして、身を守るための知識と知恵も欠かせない。それは、異常者や犯罪者から「逃げる(離れる)」「知らせる」「守る」「闘う」などの心の準備でもある。防災に限らず、安全社会を守るには「自助」「近助」「共助」が欠かせない。
◆逃げる(離れる)
 異常行動者、挙動不審者がいたら、その場から離れる。異常な空気を察知したら、ためらわずに他の車両に移る。まずはリスクから離れることが第一。
◆知らせる(傍観者にならず)
 不審物を見かけたり、異常行動者、挙動不審者がいたら、ただちに乗務員室に駆け込むか緊急通報装置で通報する。当事者でなくても暴力や犯罪をを見かけたら、緊急通報装置を押すか、駆け込み通報などで乗務員に知らせる(周囲の人、乗務員、110番、119番通報など)。明日は我が身。普段から「コクヨ・ツインウェーブ」など知らせる道具を携帯し、万一の時は笛を吹いて周囲に知らせ助けを求める準備も大切。
◆守る
 万一、刃物などによって襲われた場合、逃げたり離れたりする余裕がない時は、大声で助けを求めつつバッグや座席の座面を外し刃物などから身を守る。小銭をまとめて暴漢の顔に投げつけたりして、相手が一瞬怯んだすきに逃げる(離れる)。出入り口の自動ドアを手動に切り替え、周囲に助けを求めドアを外側から押さえて犯人を閉じ込める。また、高齢者、乳幼児、女性などをできだけ安全な場所へ避難誘導する。

◆闘う(傍観者にならず)

 狭い空間だと逃げ場が限られてしまう。バッグや座面などで身を守りつつ周囲の人に声かけて乗務員や警備員が来るまで一緒に闘う。
 ドア近くの通路には消火器が設置されている。消火器は暴漢に対峙するときの武器になる。暴漢にホースを向け消火剤を噴霧。相手が怯んだ一瞬のすきに取り押さえるか、消火器で武器を払い落す。杖や傘があればそれも使う。
 座席の座面は前側から持ち上げると容易に取り外せる。さほど重くないし刃物などから身を守る盾として活用できる。
 もし、負傷者や被害者がいたら、止血、添木、救命処置(心肺蘇生法、AED)など、出来る範囲で応急手当を行う。医師、看護師などに呼び掛けたり、暴漢と直接対峙しなくても「知らせる」「救急・救命処置」「応急手当」など、身の安全を確保しながらできる人ができることをして傍観者にならず「闘う」。
 無差別殺傷事件のような卑劣な犯罪者を許さないために、元気な人は乗客同士協力し闘う勇気も必要。
◆効率の良い技術革新(イノベーション)
 超過密運転の新幹線、1日43万人の乗客(利用者)の利便性を損なわないスピーディなAI金属探知や新手荷物チェックシステムの技術革新に期待したい。
 それまでの間は、乗客同士が協力して犯罪を防止するために連帯し、不条理な暴力や犯罪を決して許さない断固とした社会風土をつくるべき。そのためにもひとり一人が防犯だけでなく、大地震などの災害にも備え「非常用品セット」など、自分を守る道具と準備が必要ではないだろうか。

◆新幹線に乗車したときの注意
 新幹線に乗車したら、消火器、緊急通報装置(電話)などの設置場所をを事前に確認する。乗降通路にある車内の説明書で乗務員室の場所などを確認しておくことが大切。(乗務員は8号車と11号車、緊急通報電話は4号車と12号車、AEDは8号車にある)

◆KTSの場合 
◆韓国の高速鉄道には「ガラス割りハンマー」が設置されている(上図)
 フランスのTGVの技術を全面的に導入した韓国の高速鉄道(KTS/Korea Train eXpress)には、大邱地下鉄火災事件(2003年・死者192人)を教訓に、火災発生時に窓からも避難できるようにガラス割りハンマーが客室内2か所に設置されている。(高速鉄道だけでなく窓の開かない地下鉄などにも)
◆客室ごとにAED(Automated External Deflbrillator・自動体外式除細動器)設置(下図)

◆駅発車ごとに安全設備の説明と避難方法をレクチャー
 KTSでは航空機の機内と同じように、駅発車ごとにモニター(上図)で安全設備の説明動画が流される。その中には車内で火災発生時など緊急時対応や避難方法、合わせて消火器の使い方などもレクチャーしている。

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