四川大地震防災講演中越地震阪神・淡路大震災防災システム研究所

平成19年新潟県中越沖地震・現地調査報告
 平成19年(2007年)7月16日(月)午前10時13分、新潟沖60Km、深さ17Kmを震源とするマグニチュード6.8の地震発生。柏崎で震度6強を記録する激しい揺れに襲われた。この地震で倒壊した家屋の下敷きになるなどして死者11人、重軽傷者2,098人、建物損壊35,842棟などの大きな被害を出した。柏崎小学校などの避難場所に一時約12,000人が避難した。数日間余震が頻発したが、平成16年中越地震と比較すると余震回数は少なく推移している。
 この地震で東京電力刈羽原発が自動停止した。しかし、地震直後変圧器が炎上し鎮火するまで2時間を要したこと、微量とはいえ放射能を帯びた水が溢れ海に流失する被害が発生した。地震の恐怖と合わせて市民を不安に陥れ、消防法に基づく使用停止命令により現在全面稼働停止している。こうしたとき、ともすれば責任追及の声が強くなるが、そうなると抜本的再発防止策がおろそかになってしまう。他の原発が同じ基準で稼働中であることを勘案すれば、責任追求よりもが今は原因解明を優先し稼働中原発の緊急対策を急ぐべきである。そもそも全ての原発は基準に基づき設計・施工・管理され、安全保安院監督下で運営されてきたことを思えば、根源はその基準や指針にあるといえる。今後、原発側の危機管理体制強化と共に、昨年改訂された「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の再度見直しの声が上がるのは当然である。
 また、柏崎の大手自動車部品メーカー・リケンの工場が被災し、ピストンリングや変速機などの部品が供給不能となった。これにより自動車メーカーが操業停止に追い込まれるなどサプライチェーンの危うさが露呈された。改めて今、実践的企業防災・危機管理及びBCP(事業継続計画)の重要性がクローズアップされている。今回の地震によって明らかになった安全の死角を教訓とし、規模を問わず企業は防災・危機管理体制強化が焦眉の急である。
犠牲者のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災者の方々に心よりお見舞い申し上げます。
防災アドバイザー 山村武彦

(写真・文の無断転載、複写はご遠慮願います)

広域緊急援助隊の捜索活動
 散歩中の男性(76)が行方不明ということで、倒壊家屋の下敷きになっている可能性もあるとし、広域緊急援助隊(警察官)たちが必死の捜索活動に当たっていた。倒壊家屋は100年から150年前の古い土蔵を改修したものが多く、厚い泥に阻まれて捜索は難航した。 男性は二日後、寺の本堂の倒壊現場から遺体で発見さた。死傷者の多くは、室内で家具、ガラス、建物などの倒壊によるもだったが、散歩中、外出中倒壊してきた家屋の下敷きになった方々も多かった。
 自分や家族のためだけでなく、周囲の人たちのためにも建物の耐震化を進めるべきである。以下は二日後から行った現地調査によるもので、数字等は速報ベース。
県災害救援ボランティア本部
(県社会福祉協議会内) 025(281)5551
柏崎市災害ボランティアセンター
(市社会福祉協議会内) 0257(22)1411
刈羽村災害ボランティアセンター
(環境改善センター内) 0257(45)2316
出雲崎町災害ボランティアセンター
(保健福祉総合センター)0258(78)2138
家財の一時保管
新潟県は、倒壊家屋を解体撤去する世帯を対象に家財の一時保管を行っている。申し込み、問い合わせは柏崎市役所内の中越沖地震現地災害対策本部、0257(21)2356。

住宅耐震化は大切、だが・・
 地震発生の都度、住宅の耐震性が叫ばれる。そして、自治体は無料耐震診断、耐震改修補助制度などで推進を図ろうとしている。しかし、一向に住宅の耐震化は進まず、準備した予算は未消化で終わる。その理由の一つが住民の防災意識の低さにあると思う。自分だけは大丈夫という根拠のない自己暗示をかけ、厳しい現実から目をそらせてしまう。
 今、国と自治体がコストとエネルギーを傾注すべきは、住民への防災・危機意識の啓発運動である。
「備えあれば憂い無し」ではなく、「憂いがなければ備えない」のだ。防災民度向上こそ優先課題である。
国民生活センターは被災生活上の問題などに対して携帯電話用サイト「くらしの110番」で情報提供。県の相談窓口やボランティアを頼む場合の電話番号などを掲載している。http://www.kokusen.go.jp/mobile/index.html
塀の倒壊
 大谷石、ブロックなどのうち、鉄筋の入っていない塀倒壊が目立った。
 防災とは、被害者にならない、加害者にならない、傍観者にならないこと。自宅の塀が倒壊して、家族だけでなく通行人にも危害を与える可能性がある。意図的ではないにしても結果として加害者になってしまう。門柱、塀、ガラスなど外部に面した部分の転倒、落下、飛散対策は急務である。
刈羽原発正門
 「連続無災害日数2日」の文字。
今も将来も日本にとって原発は必要である。だからこそ、情報公開、安全確保、危機管理強化を図る必要がある。
 2006年9月19日、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」が改訂された。活断層評価対象期間が延期され変動地形学的調査項目が入ったことは、従前指針からすれば一歩前進と思われる。しかし一方で、調査さえすれば活断層の有無が確実に判定できるとしているが、それを前提とした指針はいかがなものか。
 現時点で活断層位置探査技術や地震発生メカニズムが全て確立・解明されてはいない。このことは防災関係者の間で共通の認識である。自然にはまだ人知の及ばぬ部分が多々あることを率直に認め、活断層の有無が完全に解明でき得ない場合もあることを前提として「マグニチュード」だけではなく、その地域が襲われる最大の揺れ「震度7」想定の耐震基準とすべきである。今回の地震を契機に今一度指針見直しを図るべきと思う。「改むるに憚ることなかれ」
うねる線路
 越後線は各所で線路がうねるなど大きな損傷を受けたが、出雲崎〜吉田駅間は7月18日からバス代行輸送を開始。
 土砂崩れて埋まった信越本線は、完全復旧はまだ先だが、7月21日からは長岡〜柏崎間をバスによって代行運行を開始し、7月23日からは犀潟駅〜柿崎駅間を臨時列車で運行を再開。
 特急「北越号」、寝台列車「北陸号」「能登号」「日本海号」「きたぐに号」「トワイライトエクスプレス号」及び快速「くびき号」は、始発駅を7月31日発となる列車まで、全列車・全区間で運休。また、8月1日以降の運転計画は未定。
 平成16年中越地震の際、地震後1.5Km走行し続け脱線、2ヶ月間運行を停止せざるを得なかった上越新幹線は、今回は地震直後に停止した。安全点検後16日夜には運転再開を果たした。大糸線、北越急行は平常通り運行している。
浮き上がったマンホール
各所で埋設配管やマンホールなどが損傷したが、平成16年の中越地震よりは損傷度が低いように見受けられた。
頼もしい自衛隊災害支援
自衛隊のきびきびした対応は、被災者たちに安心を与える大きな役割を果たしていた。日本の安全はこうした若者たちによって支えられているのだと頼もしく思った。
海上保安庁が海から給水活動
海上保安庁は、地震直後から巡視船などを派遣し、新潟県職員の輸送と同時に海上から大量の飲料水を柏崎港に輸送し、自衛隊や市町村の給水車に給水するなど大活躍した。陸路の輸送が困難となる災害時、海上からの補給が功を奏することを証明した。
自衛隊・六甲の湯を設営
自衛隊がいち早く仮設風呂を開設。風呂から出てきた子供の満面の笑みに、涙ぐむ若い母・嬉しそうだった。
 陸上自衛隊第三師団(伊丹市)は給水と入浴の支援のため、隊員27名が5トン水タンク車5両、野外入浴セット2セットとともに柏崎市に入った。
 陸上自衛隊による給水や給食、入浴サービスを受けられる場所の情報を携帯電話サイトで提供している。http://www.mod.go.jp/gsdf/mobile/
陸自入浴支援問い合わせ
陸上自衛隊による避難所での入浴支援(女性、男性など時間別実施)。問い合わせは陸自第12旅団広報室、0279(54)2011、内線214。
避難所の張り紙
柏崎市内の小中学校は、地震後一週間休校となり、7月23日に登校し翌日から夏休みに入った。
救援物資の配給風景

被災動物・ペットの預かり先
柏崎地域振興局 0257(22)4180
中越動物保護管理センター 0258(39)5261長岡地域振興局 0258(33)4936
魚沼動物保護管理センター 025(792)8621上越動物保護管理センター 025(525)9263県生活衛生課 025(280)5206。

トイレ設置場所(柏崎市)
避難所、公園、主な公共施設、町内会から要望のあった場所に計1797基設置。
トイレ設置場所(刈羽村)
避難所、各集落センター、村役場などに計110基設置。
トイレ設置場所(出雲崎町)
合併浄化槽への管路破断した民家などに計11基設置。
東京電力提供のトイレ200基
東京電力から提供された200基のトイレを自衛隊が運び18日に被災地に設置。
海上自衛隊のトイレ60基
海上自衛隊は災害派遣用簡易トイレ(テント式)を舞鶴地方総監部から護衛艦「あさぎり」で、また、呉地方総監部から輸送艦「くにさき」で柏崎港に運び17日18時から避難場所に設置。
いざというときの大量物資は海上輸送が役立つことを証明した。
心のケア
日本でも災害時における被災者の心のケア、PTSD対策などのため、カウンセラーが派遣されるようになってきた。
こころのケア相談(午前8時30分―午後10時) (0120)913600、025(281)5773
心の相談室(第1―第4月曜午後1時―5時、第1・第3木曜午後4時―7時) 025(227)4411、(0120)756067。
避難場所となった柏崎小学校
 被災者は高齢者が多く、今後の福祉避難所のあり方が問われている。
エコノミークラス症候群対策相談(午前8時30分―午後5時15分) 025(280)5202
被災者に対する行政の支援策(午前8時30分―午後5時30分) (0120)692110
障害者支援
新潟県は、柏崎市に障害者相談支援センターを設け、被災した障害者と家族の相談に応じる。午前8時30分―午後5時。問い合わせは0257(22)1215、080(1026)7162、080(1198)5684、080(1118)5508。
高齢者支援
社会福祉法人長岡三古老人福祉会は、長岡市で同会が運営する特別養護老人ホーム5カ所、介護老人保健施設2カ所で緊急ショートステイを実施、被災した要介護の高齢者を受け入れる。問い合わせは同市の特別養護老人ホーム槙山けやき苑、0258(29)2500。
避難場所に特設無料電話
16日夕方から翌日、避難場所にNTT東日本が特設無料電話を設置。

電話は一時輻輳状態でつながらなかった

固定電話は、地震直後最大87%の発信・着信規制をしたため、10回かけて1回つながるかどうかの状態だったが、17日早朝には復旧した。

携帯各社は中継所被災や停電で支障
停電や中継所などの損傷によって、18日午前中までつながりにくい状態が続いた。
「非常本」600冊寄贈
防災システム研究所コクヨS&T(株)は、被災者の生活再建に役立ててもらおうと7月21日、山村武彦著「非常本」600冊を柏崎市教育委員会に寄贈した。
 この本には罹災証明、生活再建支援法、その助成制度、がれきの撤去、その費用、税金の減免、保険金の受け取り方、PTSD、エコノミークラス症候群対策など、43年間現地調査で得た教訓や被災後のノウハウが書かれている。7月18日に現地調査を行った際、私をテレビで見たという被災者達から、り災証明など質問攻めにあった。1冊だけ持っていた非常本を渡すと大変喜んでくれたので、寄贈することを決めた。
(写真右は私と共に取材中の日本テレビ・ザ・ワイドの渡辺アナウンサー、左は土蔵造りの自宅が大きな被害を受けたKさん)
柏崎市の教育総務課長(左)に非常本600冊の目録を伝達。
少しでも被災者の生活再建に役立てていただければと・・・
 7月19日、柏崎市災害対策本部は全ての救援物資の受け入れを一時的に断ると発表した。これは物資を保管している体育館など8カ所すべてが満杯になったため。これまでも個人からの物資は原則受け入れていなかったが、企業、自治体などからの支援も断ることになった。
 こうした情報があったので、事前に災害対策本部などに打診した結果、「非常本」は被災者の生活再建に役立つので、是非お願いしますと言われ、21日の寄贈となった。非常本は各避難所で22日から希望者に配布された。
ファイト!負けるな柏崎!
意気に感じた出版社アニカが早朝東京を発ち、昼過ぎに柏崎市役所に運び込んだ非常本
 7月21日現在、避難場所にはまだ3,000人以上が避難し、7,680棟の建物が被害(消防庁)を受けたとされている。震度6強の激しい揺れを乗り越えた被災者には、これから生活再建という長く苦しい試練が待っている。

 600冊では焼け石に水と思われるので、要望があり次第追加寄贈を検討する。