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地震発生時の心得と退避行動

★地震列島日本に住む覚悟と準備
 日本列島は地震列島です。1923年の関東大震災からの101年間に100人以上犠牲者を出す地震が16回発生、そのうち1000人以上犠牲者を出した大地震は10回も発生しています。つまり、平均6年に一度は100人以上犠牲者を出す地震が発生、9年に一度は1000人以上の犠牲者を出す大地震に襲われているのです。日本は世界有数の地震多発国です。
そして、1995年阪神・淡路大震災の発生確率は30年以内に0.02%~8%でした。2011年東日本大震災ではM9.0の地震発生は全く想定されていませんでした。2016年熊本地震を引き起こした布田川断層が30年以内に動く確率はほぼ0~0.9%でした。さらに2024年の令和6年能登半島地震は、能登半島が震度6弱以上の揺れに見舞われる確率は約3%でした。
 このように、低い発生確率でも大地震が起きる可能性があり、日本中絶対安全な場所はないと思っていた方が間違いありません。向こう30年以内の発生確率70~80%といわれる南海トラフ巨大地震や、発生確率70%とされる首都直下地震だけでなく、いつでも、どこでも震度6強の大地震が前触れなく起きる可能性があると思って、命を守るためわが家の防災力(知識と意識)アップが急務です。
 先ずは住いの耐震化、家具・電化製品の転倒落下防止対策、ガラス飛散防止フィルムを貼るなどして、わが家を安全な場所にする必要があります。そして、心の耐震化です。緊急地震速報が発表された時、地震の揺れを感じた時、命を守る行動、そのための知識、意識、そして行動力が大切です。50年以上、世界中の災害現場を調査してきて得た教訓を活かし、「よくある質問」にお答えします。ご参考にしてくだされば幸いです。更新/2024年4月22日
防災・危機管理アドバイザー 山村武彦

★地震発生時の心得と退避行動Q&A 

Q①、家にいるときに地震が発生したら、机の下に身を隠せばいいのですか?
A①、原則は「安全ゾーンへ退避する」ことです。

安全ゾーンというのは「転倒落下物の少ない閉じ込められない場所」です。
「地震!机の下へ」というのも間違いではありません。例えば、それしか方法がない場合、ほかに避難する余裕がない場合、極めて耐震性の高い建物の中にいた場合などは、落下物などから身を守るために「頑丈な机の下や家具などに身を隠す」行動で良いと思います。実際に家が倒壊しても机の下に入っていて助かった事例もあります。
 しかし、どんな状況でも「地震!机の下へ」が正しいと決めつけるのは危険です。古い木造建物だと倒壊する可能性があり、建物がつぶれれば机もつぶれます。また、倒壊しないまでも天井が落下したり、ドアが変形して閉じ込められたりした場合に、万一火災が発生したりガス漏れが発生した場合、机の下に身を隠していたら逃げられなくなる恐れがあるからです。

 
ですから地震発生時の行動として机の下だけにとらわれず、小さな揺れや、緊急地震速報のときに玄関ドアを開けるなど避難路確保し、安全ゾーンへ退避することが大切です。安全ゾーンとは玄関など、ガラスから離れ、転倒落下物の少ない閉じ込められない場所です。
※地震発生時にいる建物、場所、その状況などによって、退避方法は変わります
 
地震時の退避行動は状況(建物が古いか新しいか、構造、地盤地形、いる場所、室内の転倒物等の有無など)によってすべて異なります。一つの目安は建築年数です。木造建物でも2000年6月1日以降に建てられた建物は耐震性があると思います。(2000年5月31日付で耐震基準が強化されたからです。それを2000年基準と呼びます)

Q②、トイレは地震に強いというのは本当でしょうか?
A②、必ずしもトイレが地震に強いとは言えません

昔は「地震に強いのはトイレ」と言われていました。しかし、それは昔の木造建物の中における相対的な言葉です昔の家のトイレは四方に太い柱がありましたが、最近の家はほとんどがユニット形式などで、四方に太い柱がない場合が多いのです。また、トイレは壁に囲まれていますが出入り口は一カ所で、昔と違ってドアも密閉性が高く地震の揺れでドアが変形すると閉じ込められる恐れもあります。原則は、地震時にトイレにいたら急いでドアを開け、玄関などの安全ゾーンへ移動することです。

Q③、「地震のときは、慌てて外へ飛び出すな」は正しいのでしょうか?
A③、倒壊の恐れがある建物にいたら、家の外の安全ゾーンへ退避すべきです

 
以前から地震のときは「慌てて外へ飛び出すな」と言われてきましたが、それも一理あります。それは、慌てて外へ飛び出すと、出入り口などの上から瓦、壁、ガラスなどの落下物によってケガをする危険性があると考えられていたからです。
 
しかし、倒壊の危険性やドアが変形するおそれのある古い住宅であれば、建物が倒壊したり閉じ込められたりする危険性がありますので、古い建物の1階にいたら出来るだけ早く外部の安全ゾーンへ退避すべきです。ただし、事前に出入り口などの落下物対策をしっかり行うことが前提です。

Q④、地震のとき、古い木造家屋の2階にいたら?
A④、慌てて1階に降りない方が安全と思われます

 倒壊する危険性のある古い建物の1階にいたら事前に落下物対策をした上で、直ちに外部の安全ゾーンへ退避したほうが安全ですが、もし、そうした建物の2階にいたら、慌てて1階に下りない方が安全です。階段を踏み外したり、1階は倒壊する危険性があるからです。2階建ての場合、2階にいたほうが潰れても隙間ができやすく、倒壊しても助かる率が高いからです。ですから、地震だけのことを考えれば寝室は2階のほうが安全です。

※緊急地震速報や小さな地震の揺れを感じたら、ただちに「防災訓練」と思って安全ゾーンへ退避
 
地震発生時に伝搬される揺れは初期微動(P波)の小さな揺れと、主要動と呼ばれる大きな揺れ(S波)があります。震源の場所によりますが、地震発生時はS波の大揺れの前に、小さな揺れのP波が数秒から数十秒続きます。また、近年では大揺れが到達する前に大地震発生をいち早く知らせる緊急地震速報で地震発生を知らせる仕組みも確率が上がりつつあります。S波の大揺れになったら歩くことも立つこともできなくなる場合があります。
 緊急地震速報を見たり、ドアや窓がカタカタ揺れるような地震の小さな揺れを感じたりした場合、直ちにドアを開け安全ゾーンへ移動することです。地震で大揺れになるとドアが変形することがありますので、小さな揺れや緊急地震速報で防災訓練と思ってドアを開けること、避難路の確保が大切です。
 小さな揺れや緊急地震速報でドアを開け安全ゾーンへ退避する癖をつけておけば、本当の大地震のときも慌てないで対応できると思います。ドアを開けても手を放すと閉まってしまいますから、サムターンを回して手を放しても閉まらないようにすれば、後からでも出入りすることができます。ともかく、閉じ込められないようにすることです。
※緊急地震速報
 緊急地震速報は地震発生後、大揺れ(S波)より先に到達する小さな初期微動(P波)を観測し、震度5以上の揺れになる可能性のある地震と想定した場合、震度4以上の揺れになると想定される地域に発表されます。震源の距離によっても異なりますが、大揺れが到達する数秒から十数秒前に知らせ、少しでも被害を少なくしようとするものです。しかし、深発地震(200㎞以深で発生する地震)では震源の距離が遠く深いため、地震波の減衰などもあり、緊急地震速報が発表されない場合もあります。また、都市の真下で発生する直下型地震のように震源が近い場合は、緊急地震速報が発表される前に大揺れがやってくる場合もあります。つまり、地震が発生しても緊急地震速報が必ず発表されるとは限らず、また、誤報や空振りもあることも認識しておく必要があります。それでも徐々に精度や確率は高まってきていますので、緊急地震速報が発表されたら防災訓練と思って命を守る行動を取ることが大切です。それがもし空振りだったら、防災訓練ができて良かったと思えば時間の無駄にはなりません。また、緊急地震速報が発表されていなくても、小さな揺れを感じたらその場に合った安全ゾーンへ退避しましょう。
※柱がたくさんある玄関は、比較的安全ゾーン
 意外と地震に強いのが玄関です。地震災害の現場を50年間見てきましたが、倒壊した建物でも玄関だけ残ったという建物を多く見てきました。玄関は小さな空間にたくさんの柱があるからだと思います。緊急地震速報を見たり聞いたりしたとき、地震の揺れを感じた時に玄関のドアを開けることは安全ゾーンへ行くことになります。

※凍りつき症候群
人間は突発的災害に遭遇するとすぐに反応できず、身体が凍り付いて動かなくなってしまう場合もあります(凍りつき症候群)。しかし、普段から小さな揺れや緊急地震速報が防災訓練と思って安全ゾーンへ退避する癖をつけておいた人は凍りつき症候群にならないのです。100回空振りでも101回目も行動を起こすことが大切です。
近助の精神
 震度5弱以上の地震が発生したとき、隣近所に体の不自由な人、高齢者、妊産婦、乳幼児がいたら、元気な人が声をかけて安否確認をしてください。もし必要でしたら避難の手伝いなど手を貸してやってください。避難するときは自分と家族だけでなく隣近所にも声を掛け一緒に避難しましょう。元気な人もいつかは年を取り災害時要援護者になります。元気なうちは近くで近くにいる人をさりげなく関心を持ちいざという時は助けてください。それが近助の精神です。

Q⑤、地下街や地下鉄の駅にいたらどうしたらいいのでしょうか?
A⑤、「まずは身の安全を図り、その場の安全ゾーンへ退避」そして「揺れが収まったら、非常口や階段などに殺到するパニックに巻き込まれないようにしつつ、可及的速やかに地上へ避難」です。
 地下街、地下鉄の駅にいる時、地震の小さな揺れを感じたり、緊急地震速報を見たり聞いたりしたとき、地震に遭遇したとき、その場その場の安全ゾーンへ退避すること。その場の安全ゾーンとは、照明器具、電光掲示板、ガラス、陳列棚、落下物等から離れた、太い柱の陰などです。
 
地下街、地下鉄駅などで怖いのは津波だけでなく、地下の密閉空間では火災、ガス漏れ、停電、パニックに巻き込まれることなど様々なリスク要因があります。いったんは安全ゾーンへ退避して身の安全を確保した後、揺れが収まったら、パニックに巻き込まれないよう用心しながら、安全そうな避難口から早めに地上に退避することが大切です。

Q⑥地下は地震に強いと言われますがそれは本当でしょうか?
A⑥、地上の構造物より地下の構造物の方が地震に強いといわれていますが、絶対ではありません。

 
一般的に地上に比べて地下構造物のほうが地震の揺れには強いと考えられています。しかし、絶対ではありません。たとえは阪神・淡路大震災のとき、私は2時間後に現地に入りました。神戸の大開大通りが陥没していたので調べてみますと、道路の下にある地下鉄大開駅が崩壊していました。そこは海に近く地盤の弱い場所でした。一般的には地上より地下構造物の方が地震の揺れには強いのですが、地盤や地形などによって異なりますので地下が絶対安全とは言えません。その場その場で身の安全を確保した後、揺れが収まったら慌てず、しかし早めに地上に脱出することが大切です。
 ただし、その場合、地上の出口などが火災やガス漏れ等が発生していないか安全を確認してからです。地上の出入り口が危険と判断したら、他の出入り口から避難します。


Q⑦、地下鉄に乗っているとき地震に遭遇したら、どうしたらいいでしょうか?
A⑦、「原則は、係員の指示を待つ」です。
 地下鉄の線路やトンネル内には高圧電線が走っている場合がありますので、慌てて線路上へ飛び出すのは危険です。ただし、火災が発生したり、煙が充満したりした場合に係員の指示がなければ、周囲の人に声をかけ自分たちの判断で非常用コックを開いて避難すべきです。係員が絶対正しいとは限らない場合もあるからです。
 
たとえば、2011年5月・JR北海道のトンネル火災事故のとき、トンネルと車両内に煙が充満しているにもかかわらず係員の適切な避難誘導はありませんでした。危険と察知した乗客たちが自分たちの判断で脱出して避難しました。それでも約90人の負傷者が出ました。焼け焦げた列車の残骸から判断して、もし、避難が遅れていたら多数の犠牲者がでたと推測されています。

Q⑧、車を運転中に緊急地震速報や地震が起きたらどうしたらよいのですか?
A⑧、ハザードランプを点滅させ、前後の車に注意しつつ徐行し左側に寄せて停車します

 安全な路肩に停車した後、ラジオで情報を聞きながら、幹線道路であれば横道に逸れて広場や駐車場に停めます。そうした被災地で他の人の場所に車を置いて車から離れるときは、キーを付けたまま、ドアをロックしないで、連絡先のメモを残し、車検証を持って徒歩で避難することがマナーです。

Q⑨、デーパートやスーパーマーケットにいた場合、地震が起きたらどうしたらよいでしょうか?
A⑨、まず、その場で身の安全を図り、係員の指示に従ってください

 陳列棚や、ガラス、照明器具などの転倒落下物から離れ、少しでも広い場所に移動します。係員が避難誘導している場合は係員の指示に従ってください。最近は安全ゾーン(地震一時避難場所など)を設けているお店も増えました。買い物に行ったら
店内に掲示してある避難経路図で非常口、安全ゾーンなどを確認してください。

Q⑩、街中を歩いているとき、地震が起きたら?
A
⑩、建物から離れること、離れられない場所であれば安全そうなビルの陰かビルの中に入ること
 街中で地震が発生した時、危険なのはガラス、壁、看板などの落下物です。原則は建物から離れること、離れられない場所であれば安全そうなビルの陰か中に入る方が良いと思います。

Q⑪、エレベーターに乗っているとき地震にあったら?
A⑪、念のため、すべての行き先階ボタンを押して、停まった階で降り階段で避難します。

 最近のエレベーターには地震時管制運転装置が設置されていて、地震の初期微動(P波)を感知すると自動的に最寄階に停止するようになっています。しかし、その装置が設置されていないエレベーターもありますので、念のため全ての階のボタンを押し、停まった階で降りて階段で避難します。(地震時管制運転装置が設置されているかどうか管理会社などに確認しておくとよいと思います)

Q⑫、エレベーターに閉じ込められた場合は?
A⑫、設置されている緊急連絡ボタン(インターホン)で外部と連絡を取り、慌てず救助を待ちます。

 地震時管制運転装置が設置されていないエレベーターや、設置されていても突然、大揺れに襲われた場合、エレベーターの損傷を防ぐため、階と階の途中でもエレベーターが停止する場合があります。そのようにエレベーターで閉じ込められた場合、まずは、戸開ボタンを押して戸が開くかどうか、すべての行き先階ボタンを押して他の階に動かないかどうか、試してみましょう。開かない場合は、緊急連絡ボタン(インターホン)や緊急連絡先などで外部へ救助を要請し、係員の到着を待つことです。換気口などもありますので窒息する心配はありません。最近のエレベーターには閉じ込められを想定し、エレベーター防災セット(トイレ等)が設置されているものもあります。

Q⑬、地震のとき、火を消す事が最優先ですよね?
A⑬、目の前で火を使っていたら、直ちに火を消します。もし、離れていたら、まずは身の安全が優先です。
 以前は「地震!火を消せ!」が合言葉でした。しかし1993年1月に発生した釧路沖地震のあと「地震!まず身の安全、そして火を消せ!」に変わりました。釧路沖地震発生時、揺れている最中にストーブなどの火を消そうとして、ストーブの上に載せてあった加湿容器からの熱湯を浴び、多くの人がやけどを負いました。それ以来「地震!まず身の安全、そして火を消せ」というようになりました。しかし、地震時の火災は消防力も低下しますので大火になりやすいので、「火は出さない」「火が出たら小さなうちに初期消火」が基本です。
 ガスには地震を感知すると自動遮断装置が付いています。目の前で火を使っていたらただちに火を消しますが、離れていたら揺れが収まってから火の元を確認してください。

Q⑭、停電になった時はローソクを点けてもいいですか?
A⑭、地震直後は火気厳禁です。
 地震によって停電が発生することが多いのですが、地震直後は火気厳禁です。阪神・淡路大震災は冬の朝5時46分の地震でしたから外は真っ暗でした。停電になったので、仏壇などのローソクに火を点けたとたんに漏れていたガスに引火して火災になったケースがありました。余震も多発しますのでガスの元栓を閉じ、漏えいの有無などを確認するまでは火は使わないようにしましょう。
 もし、ガスのにおいがしたら、換気扇のスイッチ(火花が出ます)など入れずにただちに窓や出入り口を開け、ガスの元栓を閉じ、その場から離れて、火を使わないように近隣に呼掛けます。そして、消防署とガス会社に連絡してください。

Q⑮、通電火災とはなんですか?
A⑮、地震後の停電が復旧したとき、壊れた配線や電気器具から出火することを通電火災と言います。
 地震直後に壊れた電気器具などから出火する場合もありますが、阪神・淡路大震災時には地震から2~3日後に電気が復旧した地域から火災が発生しています。それらの多くが壊れた電気器具に復旧した電気による通電火災を推定されています。こうした通電火災を防ぐために、避難するときはブレーカーを落として避難することが大切です。しかし、建物が損壊したりモノが散乱した中でブレーカーを手動で遮断することが困難な場合があります。そこで、地震の揺れを感知して自動的にブレーカーを落とす「感震ブレーカー」を設置しておくと安心です。

Q⑯、海岸近くにいる時、地震が発生したら?
A⑯、まず身の安全を図り、そして揺れが収まったら「高台か近くの高いビルに避難」

 海岸近くで緊急地震速報を聞いたり地震の揺れを感じたら、まずは身の安全を図るためその場の安全ゾーンへ退避します。揺れが収まったら津波警報の有無にかかわらず念のため高台か近くの高いビル(4階以上)に避難して下さい。
※津波防災3か条
1、津波・洪水逃げるが勝ち
2、健常者は駆け足で、身体が不自由な人は車で高台へ避難
 (みんなが車で避難すると、渋滞になって車ごと流される危険性があります)
3、遠くより、高く、一度避難したら警報解除まで戻らない

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