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2009年オーストラリア・大規模森林火災(Bush Fure)現地調査報告(文・写真/山村武彦)

★ブラックサタディ
 オーストラリア全土で毎年約6万件の山火事が発生しているが、そのうち50%以上が放火または放火の疑いとされている。しかし、今回の出火原因は送電線からの出火と落雷によるものとされる。一部の地域では便乗犯と思われる放火容疑者が逮捕されている。死者71人(メルボルンのビーコンズフィールドの消防士12人を含む)、焼失家屋2000戸の被害を出した1983年2月16日(水)の大規模な山火事は「Ash Wednesday・灰の水曜日」と呼ばれたが、今回はそれを上回る史上最悪の山火事となり2009年2月7日(土)をブラックサタディ「Black Saturday・暗黒の土曜日」と呼んでいる。

 オーストラリア南東部ヴィクトリア州で2009年2月7日から発生した大規模森林火災(BushFire)は、死者173人、焼失面積約40万ヘクタール(東京都の約2倍)、焼失住宅約2000棟、避難住民約7500人というオーストラリア史上最悪の森林火災災害に発展した。現地では100年に1度といわれる記録的な干ばつ、熱波(40℃~46.5℃)、異常乾燥(湿度5%)、強風などの悪条件が重なったことが被害を大きくした要因としている。
その上、干ばつが長引き(10月からまとまった雨が降っていない)病虫害を招いていて、枯木、倒木、降り積もった油を含む乾燥したユーカリ樹皮、病葉など森林はどこも可燃物貯蔵所となっていた。これらにいったん火がつくと高温(推定400~1400℃)となり、たちまち激しい上昇気流が生まれる。そこへまた新しい空気層が流れ込む対流により火災旋風が巻き起こり延焼拡大、飛び火(Spotting)していったものと推定されている。
 ユーカリ葉の芯は硬く、いったん火がつくと中々消えず「火種を保持したまま空中高く吹き上げられ、風に乗って数キロも離れた場所へ次々に火の玉(ファイアーボール)、火の粉(スポットファイアー)となって落下していった」と関係者はいう。熱波(46℃)に見舞われていた森林に落下したスポットファイヤーは、一気に炎上し猛スピードで広がった。そして避難途上の人たちは逃げ道を失い、車ごと犠牲になったものと推定されている。「まるで引火性の高い危険物火災のように山肌を火が走っていった」と目撃者は語っている。このメカニズム検証・解明は今後の大きな課題となる。
 オーストラリア北部では記録的な水害、南部では過去にない熱波に襲われた。未曾有の異常気象は日本も無関係ではない、過去の災害だけを基準にした対策では到底追いつかないことをヴィクトリア州森林火災が警告している。そして、マスコミ、行政、市民等がそれぞれに自己責任をもう一度検証し認識し直す必要があるのではないだろうか。もはや遠隔地の災害であっても対岸の火事と見過ごせない時代である。
犠牲者のご冥福を心よりお祈り申し上げます/山村武彦

メルボルン近郊の山火事を示す/NASA衛星写真
 上空高く巻き上がった煙は、メルボルン近郊だけでなくシドニーなどにも煙害を引き起こしており、気管支疾患者が急増している。2月25日現在10か所以上で火災は続いており大雨が降る見込みもないため、風向きによっては航空機への影響や農地家畜などへの影響および環境汚染などが懸念される。


20Kmを約4分で焼き尽くした
 被害が大きかったキングレイク周辺住民の話によると、時速100Kmのスピードで火が襲ってきたという。管轄のダイアモンドクリーク警察署のウェイン・スペンス巡査部長も「20Kmが4分で燃えた。想像を絶するスピードだった」と話す。ケビン・ラッド(Kevin Rudd)首相は消防士4000人の消火活動を支援するため、複数の連邦軍部隊を緊急派遣したが、小雨がたまにぱらつく程度で乾燥状態は続いているため、完全鎮火までにはまだ時間がかかるとみられる。
徹底した自己責任社会
 前述のウェイン・スペンス巡査部長は火災シーズンに入る前の昨年11月にキングレイクに住む住民たちに対し山火事対策ミーティング(コーナーストリートミーティング)を行った。その時に「山火事が迫ってきても、警察、消防、行政は助けに行けない。すべては自己責任で早期避難するように」と話したそうだ。被災者も行政や政府を非難する人はおらず、家族の死傷は自己責任であり自分たちが早期自主避難を怠ったからと割り切っている。
また、家を失った人たちを収容するリリーフセンターが各地に用意されたが、一日程度そこで暮らす人はいたが自分でモーテルやホテルを見つけて暮らすため、どこのリリーフセンターにも被災者の姿はなく、ここでも自己責任社会の徹底ぶりを再認識させられた。(家を失った人たちに対するホテル代は1日1万円程度の支援金が支給される)
リリーフセンターの大きな役割は、生活再建、住宅再建の相談役のようであり、生活が困難な人が申請すればその日のうちに被災生活保護が受けられる。

ユーカリの樹皮が堆積




個人所有地にも火が迫る
オーストラリアでは森林火災(BushFireの)状況は、次の3つのカテゴリーで示されている
1、Going(延焼中)/ 2、Cotained(征圧するも再燃懸念あり)/ 3、Controlled(鎮火)
ヴィクトリア州が発表した2009年2月28日現在・ Statewide fire situation mapによるとGoing4か所、Cotained9か所、Cotrolled27か所となっていてそれぞれ火災発生日時、場所、ロケーション、ステータスなどと共に図示されている。2月28日現在・火災が多いステータスは、STATEFOREST(国有林)約55%、PRIVATE PROPERT(個人資産)約25%、NATIONAL PARK(国立公園)約15%、その他約5%


ウイラブCFA(地域消防隊/キングレイク付近)


他州から支援に駆け付けたCFA・消防ボランティアの人々
「ご苦労さま!」と声をかけると素敵な笑顔で応えてくれた

 連邦政府所管は緊急時サービス省大臣(Minister for Emergency Srevice)だが、実務は州単位となる。ヴィクトリア州の消防体制は州都メルボルンを管轄するプロ集団MFB(Metropolitan fire burigerd・47消防署/常勤職員1,737名)とCFA(Cantry Fire Authority・ボランティア消防職員約58,000人、1228消防団)があり、CFAの管理職員は1,100人で、メトロポリタン都市圏内は常勤職員400人がいる。MFBとCFAが連携して対応、大規模森林火災の場合は訓練された予備役(主婦など)も召集される。
 そのほか、国立公園(National forests parke)内の林野火災についてはNPWS(National Parks and Wildfire Service・約1,500人)の消防スタッフが一義的に対応するが、大規模森林火災ともなればMFBとCFAと連携し消火活動を行う。また近年は自主防災組織・CFU(Commnity Fire Units)の組織化が進められている。CFUの役割は自宅周辺の小規模火災の消火、火災鎮圧後の残火処理、瓦礫の撤収作業を行う。各ストリート単位により設置、1ユニット最大15人を基本構成単位としている。


必死に立ち向かう消防ヘリ(Musk Vale地区)

短い休憩(Staging Erea)

「みんな疲れてはいるが闘志はまだ衰えていない」と語る MR. MICK BOBIC/CFA

主婦兼消防ボランティア・MRS. Emma Brown/CFA

国立公園、国有林エリアなどに掲出された火気使用禁止区域表示
バーベキュー禁止、火花の出る機器使用禁止、焚き火禁止など厳しい制限がある
★ダイヤモンドクリーク警察署/Wayne Spence巡査部長
 オーストラリアでは春から夏にかけて空気が乾燥するため、トータル ファイアー バン(Total fire ban・屋外火気使用禁止令)が出される。地域によって3レベルの規制が行われ山火事に備えている。そして、シーズン前の10月~11月にかけて各地で山火事対策のための街角ミーティングが開かれる。昨年もキングレイク地区を管轄する警察・消防が開催したが山火事慣れした人々の関心は薄く、参加者は10数パーセントにとどまった。そして、キングレイク周辺だけでで38人が死亡。ウエイン・スペンス巡査部長は住民自身が意識啓発、情報確保にもっとコストとエネルギーを傾注すべきだと語った。



Bush Fire災害支援・激励・連帯のイエローリボン/CFA


筆者隣はエベリンさん
後ろに見える家畜の干草(飼料)や犬、猫、兎、鳥のフード等を市民から寄付してもらい、希望者に無料で配布する。エベリンさんはボランティアでその管理を引き受けている。

キングレイクのマクドナルドに/ドネーションボックス

通行人に募金を呼び掛けるスターバックコーヒーの店員


山火事から動物を守ろう/オーストラリアは動物を大切にする国

救出された鹿/足を火傷していた

フォスターケアラー/MRS.Sue・Sampiner
彼女はBushFireで親を失ったカンガルー等を自宅で育てている。フォスターケアラー資格は訓練と教育を受けて取得。

ミルク代などは支給されるが原則はボランティア

生後8週間目のカンガルー(Kangaroo)の赤ちゃん(Joey)(大人のカンガルーはRoo・子供はJoeyと呼ばれる)
 お母さんは山火事て死亡、現在Sueさんが大切に育てている。3時間おきにミルクを飲ませ袋に入れられ保温室に入っている。大きくなったら訓練をしてから自然に戻される。名前はジャック、今ではSueさんをお母さんと思っているようだ。

母は自分の体を盾に、わが子を守りぬいた
Sueさんは現在3匹のJoeyを育児嚢代わりの袋で育てている。3匹とも母親は手足に重篤な火傷を負い、フォレストレンジャー等により生存困難と判断され射殺された。猛火の中、母親はお腹を下にして自分の体を盾にして育児嚢に入っていたJoeyを最後まで守り抜いた。

助けられたポッサム兄弟もSueさんに育てられている

★メルボルンから車で約2時間・YARRA RANGES地区のコミュニティセンター
 ここは山火事発生直後「リリーフセンター」として被災者の受け入れを行い、一段落したあとはコミュニティ・リカバリーセンターに切り替わった。赤十字、医療機関、フォレストレンジャー、ボランティア、行政、消防、警察などがデスクを並べ、救援、被災者生活支援、情報提供活動を行っている。この地域で18人が山火事で犠牲になったため、気象条件が悪化すれば早期自主避難者が多数に上ると想定され、スタッフはみな緊張感に包まれている。

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