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2017年米 カリフォルニア山火事・現地調査写真レポート/山村武彦

★カリフォルニア州・最悪の山火事
 日本の国土面積(377,914㎢)より広いカリフォルニア州(403,932㎢)。2017年10月8日、その南部(ロサンゼルス方面)と北部(サンフランシスコ方面)で同時多発的に山火事発生、折からの乾燥・高温の強風により広範囲に飛び火し同時多発火災となった。カリフォルニア州は元来山火事多発地帯ではあるが、その消防関係者でさえ今世紀最悪と言うように、短時日(約1週間)で東京23区の約2倍の面積を灰燼に帰す大規模災害となった。
 発生直後からCAL FIRE(カル・ファイア/カリフォルニア州森林保護・防火局)をはじめ、全国から駆けつけた消防隊員など約8,000人が懸命の消火にあたった。そうした活動の妨げにならないよう約80%鎮火の報を受け、10月18日から被害の多かったナパ郡、ソノマ郡など主にカリフォルニア北部を回った。
★3つの顔
 私は3年前の2015年米カリフォルニア山火事2009年オーストラリア森林火災の際にも現地を見てきたが、それらと比較して火災規模や被害の甚大さだけでなく、災害の様相が全く異なるように思われる。とくに今回ほど「山火事」や「森林火災」という言葉がそぐわないと感じたことはなかった。確かに最初の出火場所からして山火事ではあるが、強風(風速20~35m)に煽られ山麓の住宅やワイナリーが類焼。さらには3~5㎞も離れ、さらに6車線の国道101号線を飛び越えて平地の市街地にまで飛び火し商店や住宅を全焼させている。それぞれの延焼プロセスは異なり燃え方も一様ではない。共通しているのは強風・乾燥・高温。私は消防のプロではないが、多くの山火事を見てきた経験則から偏見と独断で3つの顔(カテゴリー)に分けてみた。
1、乾燥・高気温・強風山林火災
2、枯草高速延焼による山麓住宅類焼火災
3、強風長距離飛び火・平地住宅火災
★枯草高速延焼火災
 山中で樹木が炎上しているところもあったが、猛スピードで延焼拡大させた要因のひとつは山を覆いワイナリーや山麓住宅などへも続く10~18cm程度の乾燥枯草。何らかの原因で発火した火は乾燥枯草を伝い、地を這うように山間地から山麓へと猛スピードで燃え広がっていったと思われる。風速30mといわれる強風のため上部へ燃え上がる余裕すら与えないほど水平延焼のベクトルが勝る強風大火。類焼した山麓住宅の周辺樹木をみると、一部を除き地面に近い幹部分のみ黒く焼け焦げていて、上部の枝葉は多少の焦げはあるがほとんど燃えていない。目撃した住人は「時速15~40㎞と思われるスピードで地面を火が走った、まるでガソリンがこぼれたところへ一気に火が付いたようだった。そして地面からの火がみるみる車や住宅に燃え広がった」という。消防隊員も「煙と炎が斜面を川のように一直線に下っていった。その火が平地に流れ込むと山津波かファイア・ストーム(火の嵐)のように扇状に広がり、あっという間に山麓の住宅街が火の海になり手が付けられなかった」と話す。さらに同じ住宅街でも全く燃えていない一角もある。消防隊員は「風の道があって、それから外れた場所は無傷で残った」という。山火事慣れしているはずの住民たちが、なぜ逃げ遅れ多数の犠牲者を出したのか。その疑問への答えは彼らの証言が雄弁に語っていた。そして、逃げ遅れた人の70%以上が65歳以上の高齢者。痛ましい限りである。
★放置空き家・放置空き地増加の日本でも強風大火・枯草大火の危険性
 こうした強風大火は日本でも2016年12月の糸魚川大火が記憶に新しい。また今回のような枯草起因火災は、約7割が中山間地の日本でも起きる可能性がある。とくに最近増えた空き家や空き地で放置された枯草対策も急務。これから冬季に向かい乾燥・強風などの条件が重なれば中山間地だけでなく市街地でも強風大火の危険性は否定できない。このカリフォルニア州の山火事を対岸の火事とせず、明日は我が身として山間地と住宅地との間の防火帯、空き家・枯草対策の強化などと共に、気象条件に対応した警戒態勢(レッド・フラッグ・ウォーニングス)など学ぶべきこともあるように思われる。

カリフォルニア州ソノマ郡の山間地
(写真提供/AP)
地表を覆った枯草の燃えたあと
上下を分ける道は、ブルドーザーで表土を削って作った防火帯
(撮影/山村)

10~18cmの枯草(起毛の表面フラッシュに似ている)
(撮影/山村)

強風に煽られ地表を這うように炎が枯草を追い水平に駆け抜けたように見える
上部の枝葉はほとんど燃えていない
(撮影/山村)

★今回最初に山火事発生日時/2017年10月8日午後9:45頃
★今回最初に山火事発生場所/米国西部カリフォルニア州北部ナパ郡山間地。
★出火原因/強風で樹木と電線が接触した火花が原因という説。また、一方でドライ・サンダーストームではという見方もある。非常に乾燥した地域では雨が地上に到達する前に蒸発してしまい、結果的に雷だけ発生しているように見えるのがドライ・サンダーストーム。そのほか放火説もあるが現時点で原因は不明。いずれにしても強風大火である。
★悪魔の風(ディアブロウインド)
 サンフランシスコなどカリフォルニア州北部では毎年秋から春にかけて「悪魔の風・ディアブロウインド(Diablo wind)」とよばれるこの地方特有の局地風(風速20m~30m)が吹き荒れる。(Diabloとはスペイン語で悪魔の意味)。一般的にカリフォルニアに吹くのは海からの風だが、季節によってディアブロ渓谷方面からベイエリア方面に向かって強風が吹く。ロッキー山脈とシエラネバダ山脈の間にあるグレートベースン(大盆地)と周辺砂漠地帯は、特有の地形・気象条件からの乾燥地域である。フェーン現象のようにそこから吹き降ろす乾燥し高温の風により山火事が多発する。降水量の少ない地域のため元々山全体が乾燥していて、いったん火災が発生すると強風にあおられ飛び火し同時多発広域山火事となり手に負えなくなる。
★サンタアナの風
 また、カリフォルニア州南部にもサンタアナ風(Santa Ana Windo)と呼ばれる局地風が吹く。(Santa Anaは、スペイン語で聖母マリア様の母である聖アンナを意味する)。サンタアナの風は秋から冬を中心にして、南ロスアンゼルス盆地に吹く高温で乾燥した風で。ディアブロウインドと同じようにグレートベースン付近で発達する高気圧から低緯度方向に吹く風で、風上にはモハーべ沙漠があるので、ここでさらに昇温し乾燥した風になる。
 サンタアナ峡谷から北東ないし東の強風となって吹き出し、ニューボルト海岸付近から太平洋上160kmくらいにまで達する。沙漠からの砂塵をともない低湿のため、絶縁体に帯電が生じ、時には燃料の爆発事故まで生じる。サンタアナの風が吹くと海岸部は砂漠より高気温になることが多い。また、山火事多発の原因となる。とくに夏に続く秋から冬にかけての火災の危険はきわめて大きい。年によっては南北カリフォルニアで数百か所の山火事となって住民を脅かしてきた。まとまった雨が降らない限り鎮火には至らないのがこの地域における山火事の特徴である。
★主な被害(2017年10月19日現在/CAL FIRE(カリフォルニア州森林保護・防火局等)
・焼失面積/カリフォルニア州全体で約115,000ha.(参考/東京23区面積約62,854ha.)
・死者/41名
・焼失家屋/5,791棟
・避難者/ピーク時約10万人
・現地調査/2017年10月18日~21日(現地時間)
犠牲者のご冥福をお祈りするとともに、被災者の一日も早い生活再建を心よりお祈り申し上げます。

風速30メートルといわれる強風に煽られ火は住宅街を襲った
山間地から数kmも離れた平地の商業地域に飛び火した
(写真提供/AP)

見渡す限り焼け野原
カリフォルニア州ソノマ郡サンタローザ市・コッフィー・パーク(Coffey Park)地域
この地域は高原に開発された高級住宅街だが、火は山間地から枯草を伝って襲ってきた
消防隊員の一人は「ファイヤ・ストーム(炎の嵐)だった」という
(撮影/山村)

上図は火災前のコッフィー・パーク
下図は火災後のコッフィー・パーク

 カリフォルニア州ソノマ郡サンタローザ市のコッフィー・パーク(Coffey Park)地域
(写真提供/AP) 

カリフォルニア州ソノマ郡サンタローザ市のコッフィー・パーク(Coffey Park)地域
この車は猛煙の中を避難し始めたが、視界を失い樹木に激突した
乗っていた住民は間一髪脱出して無事だったという
(撮影/山村)


町全体が焼け落ちた地域では、標識まで焼け落ちたため
道路名などが道路にペンキで書かれていた
(撮影/山村)

亡くなった人の約70%は高齢者で、あまりにも火が来るのが早く避難できなかった人が多い
一部地域では山火事警報が出なかったところもあった
中にはプールに飛び込んで炎から逃れようとしたが猛煙に包まれ一酸化炭素中毒死した人もいた
コッフィー・パーク(Coffey Park)の住民は「この世の地獄だった」と話す
(撮影/山村)

カリフォルニア州ソノマ郡サンタローザ市のコッフィー・パーク(Coffey Park)地域
(撮影/山村)
この地域は上からではなく、枯草の火が地を這うようにやってきたという
(撮影/山村)

(撮影/山村)

(撮影/山村)

(撮影/山村)

アメリカにも日本の自治会に似たネイバーフッド(Neighborhood)という地域コミュニティがある
地域によって内容や活動は異なるが、いくつかのネイバーフッドで「近助」「共助」が実行されていた
この地域には「アンバー・アラート」(日本のエリアメール、防災メール)という緊急警報システムがある
登録している携帯やスマホに警報音とテキストメッセージで「避難命令」などが届く
しかし、登録していない人には届かないため、ネイバーフッドの役員たちが
近くの人たちに警報を伝えたり、高齢者を乗せて一緒に避難したりした地域もあった
消防隊員や保安官が避難を勧告しても避難しなかった人が隣人に言われて避難したという人も多かった

避難所でも近隣同士声かけ合い励まし合っていた

パラダイス・リッヂ・ワイナリ
(撮影/山村)

(撮影/山村)

(撮影/山村)

(撮影/山村)

(撮影/山村)

(撮影/山村)

柱は焦げたがワイン用ブドウ畑が残ったところもあった
(撮影/山村) 

上図は火災前のサンタローザ市第5消防署
下図は火災後のサンタローザ市第5消防署
(撮影/山村)

半旗を掲げる燃えた消防署
(撮影/山村)

米国版「応急危険度判定」 

燃えた消防署の斜め前の家
(撮影/山村)

山火事の消火に全員出動中に火が迫り周辺住宅と共に全焼してしまった
焼けた消防署の前に張られたメッセージ
Station 5(第5消防署)あて
「皆さんの)家(戻るところ)が無くなり、残念に思います」
支援します! 皆さんには我々がついています! あなたの仲間より
(撮影/山村)

プールがあった家
(撮影/山村)

住人はこのプールに飛び込んで火炎から逃れた
家は全焼したが家族全員無事だったという
(撮影/山村)

(撮影/山村)


(撮影/山村)


(撮影/山村)


(撮影/山村)

消防隊の活躍 

(写真提供/AP)


(写真提供/AP)


(撮影/山村)


(撮影/山村)


くすぶり続ける山中に入り、身体を張って防火活動にあたるファイアーマンたち
足場の悪い困難な作業にもかかわらず、高潔な使命感と消防魂の士気は高い
(撮影/山村)


(撮影/山村)

 (撮影/山村))

現地災害対策本部が置かれたソノマ郡・イベント・センター
動員された州兵たちが消防隊員を支援し警備にあたる
(撮影/山村)

州知事指揮車
(撮影/山村)

毎朝ここで責任者会議が開かれ情報を共有する
(撮影/山村)

作戦会議室
(撮影/山村)

避難エリアマップ(赤色は現在も立ち退きエリア)
(撮影/山村)

ピアサポーター車
セラピストたちが待機し過酷災害によって受ける消防隊員たちの心的ダメージをケアする
(撮影/山村)

セラピードッグ・消防隊員たちを慰めるために駆け付けたボランティア
(STERとHENRYはセラピートレーニングを受けた癒しのプロ)
(撮影/山村)

メディカルサポート車・医師や薬剤師が待機
(撮影/山村)

消防隊が必要とする機材の集積場(不足分は翌日調達される)
(撮影/山村)

消防隊員たちの食堂(朝夕はここで、昼食はランチパックが配布される)
(撮影/山村)

手洗いカー
(撮影/山村)

報道陣専用トイレも用意される
全ての仮設トイレに手洗い・ペーパータオル、発電機照明がセットされている
(撮影/山村)

1日に数回メディアへのブリーフィングが行われる
(撮影/山村)

米国では消防隊員に対する尊敬の念は高く、子供たちのあこがれの職業である
サンディエゴ郡エスコンディド市から緊急支援隊として駆けつけた
カル・ファイア(CAL FIRE)の広報担当ドミニク・ポリト氏(Mr. Dominic Polito)
現場レクチャーなど親切にサポートしてくれたポリト氏に心より感謝します
彼は今後の山火事対策として、消防力強化と合わせ予防対策にも力を入れたいと話していた

レッド・フラッグ・ウォーニングス(Red Flag Warnings )
高気温、大気乾燥、強風、落雷などが予想され24時間以内に山火事の危険性が高まったと想定した時
NWS(National Weather Service・アメリカ国立気象局)が出す予告警報
対象は山林所有者・管理者・占有者、消防・警察・防災関係機関、地方自治体、住民たち

警報が出されると一部の消防署では独自の「レッド・フラッグ」を掲げ「山火事非常警戒態勢」に入る
レッドフラッグ警報が出ると、広報車、ファイアバン標識(下図)、HP等で呼掛け
危険区域は消防車が警戒にあたるとともに、危険度の高い地区へ他地区から消防車を集め待機する
レッド・フラッグ宣言で
たき火、バーベキュー、庭の草刈り機を含め火花の出る工具は外部使用禁止
違反すると罰金又は逮捕・拘留されることもあるという

消防管区ごとに今日の山火事危険度を示す標識で注意喚起を行っている

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