防災システム研究所阪神・淡路大震災東日本大震災現地調査写真レポート

 

ミサイル着弾想定避難訓練(武力攻撃【戦争】に備える訓練)

韓国の民防衛・現地調査写真レポート
 
 

 2017年8月29日午前5時58分ごろ、北朝鮮は通告なしで平壌付近(西岸)から北東方向に向かって中距離弾道ミサイルを発射。6時2分、日本政府はJアラート及びMネットを通じ発射情報を発表。ミサイルは6時5分~7分ごろ北海道襟裳岬上空を通過、襟裳岬東方沖合約1180キロメートルの太平洋に6時12分ごろ落下した模様と発表。現段階で日本領域への落下物は確認されておらず、また航空機や船舶への被害もないとしている。自衛隊による破壊措置は実施されていない。(発射角度は高く飛ばすロフテッド軌道ではなく、通常発射だったと推定されている)
 日本政府の情報把握と情報発信は迅速適切であったと評価される。弾道ミサイル発射後約4分後に北海道・東北地方方向に発射情報を発表した。今回の弾道ミサイル発射で判明したのは発射後約7分~9分で日本上空に達するということ。つまりJアラート等でミサイル発射情報が発表されてから日本領土(上空)等に到達・着弾するまで、4分~5分程度の時間しかないということ。(8月29日午前7時15分現在の情報)
 今後の課題は、発射情報発表から着弾まで3分~5分で「頑丈な建物や地下に避難」ができるかどうか?頑丈な建物や地下がない地域ではどうすればいいのか?なぜ頑丈な建物に退避しなければならないのか?。8月29日の発射情報を受けた地域や住民は、Jアラートで発射情報を知った後どのような行動ができたのか?頑丈な建物や地下がない地域もある。今後どんな訓練が必要なのか精査する必要がある。
ミサイル発射・着弾情報(Jアラート)発表時の安全・退避行動

 起こらないほうがいいに決まっている。そして過剰反応は避けるべきだと思うが、今回のように弾道ミサイル発射・着弾予想情報(Jアラート)や武力攻撃を受けた場合に備え、住民がパニックに陥らないように正しい知識の研修と併せ実践的訓練は必要。ただ、現在日本で行われている「ミサイル着弾想定避難訓練」は やや形式的で心もとない感がある。また、日本ではミサイル攻撃に備える避難シェルターの指定や表示も行われていない。私は、2017年8月18日から北朝鮮と未だ休戦状態にある韓国ではどんな訓練が行われているのか視察(2017.8.18~8.23)してきた。
文・写真/山村武彦
★民防(ミンバン)の旗(ソウル市内)
 以前は毎月15日に行われていた防空・民防衛訓練(通称:民防衛・ミンバンウィ)。ソウル特別市の場合、現在は年に1回15分間実施されている(2017年は8月23日15時から行われた)。その2~3日前になると主要道路沿いの柱に「民防の日」を知らせる旗が掲げられる。韓国語で“민방위(ミンバンウィ)”と書かれた旗を掲出するのは市と区の職員たち。

町中にサイレンが響き渡るとすべての信号が黄色の点滅に変わり、主要道路の車はすべて5分間ストップする。
以前は緊急車両が通行できるように車両は道路の両脇に停車し、運転手や乗客はシェルターに退避していたが
最近は車に乗ったままその場で停車することになっている
地下鉄の入り口には市の職員たちが民防の旗をもって住民たちを誘導
訓練の主管は安全行政部傘下の「消防防災庁」だったが、セウォル号沈没事故を契機に消防防災庁は解体
現在は国務総理直属の「国民安全処」が民防の主管となっている。その指示で地方自治体が計画を立て実行する
国民安全処の傘下には「中央民防衛防災教育院」があり、防災専門担当者の教育や防災政策・技術等の研究を行っている

シェルターの標識

サイレンが鳴ると歩行者たちは一斉に地下街、地下鉄、地下駐車場、トンネルなどに退避
こうしたシェルターはソウル市だけで3,924か所、全国で約30,000か所が指定されている

 
ソウル市庁舎入り口

 
地下駐車場もシェルター 

 
民間施設の駐車場もシェルター 

山腹を貫くトンネルもシェルターになる

停電でも見えるように階段や床に畜光標識

地下シェルターには懐中電灯が約50メートルおきに設置されている

地下シェルターの防毒マスク

 防護服

 
防毒マスクの装着方法の表示板 

学校や安全体験館では子供たちに防毒マスクの装着訓練も行っている

 

2017年京幾道「乙支演習」

 
原子力発電所がテロ攻撃を受けた場合の訓練
テロ制圧部隊・内部の模様が大型スクリーンに映される

演習会場では兵器などの展示と説明が行われていた

 ソウル市職員の話によると、市民の訓練に対する意識は以前ほど高くなく、北朝鮮から仕掛けてくる確率は低いという認識が大半だという。「いつか戦争はあるだろうが、すぐには起きないに違いない」一般的韓国人の認識は、日本における地震に対する認識と似ているように思われる。平和への努力が大切だが、一方で万一に備えパニックにならないようにきちんとした知識と訓練などの準備は欠かせない。
 今、日本で行われているミサイル発射・着弾想定訓練は決して実践的とは言えない。また、シェルターを指定しているわけでもなく、地下や建物の中に退避することになっているが、建物にミサイルが着弾した場合などは全く想定されていない。訓練のための訓練になっていないか、今一度精査する必要がある。安全・安心は誰かが与えてくれるものではなく、自らも努力して得られるものではないだろうか。

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