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東海地震とは?
 駿河湾の海底には、駿河トラフ(南海トラフ)と呼ばれる海溝が走っています。これは、日本列島南側と伊豆半島を乗せた「フィリピン海プレート」が、その北西側の日本列島を乗せている陸側(ユーラシアプレー)等の下に向かって、年間数センチづつ沈み込んでいます。そのプレートとプレートの境界が「駿河湾トラフ」と考えられています。陸側のプレートと沈み込むプレートの間にストレスが溜まり、エネルギーが一気に放出されるとき、このプレートの境界を震源域として、近い将来大規模な(マグニチュード8程度)地震が発生すると考えられています。これが「東海地震」です。東海地震は、その発生メカニズムや予想震源域・歴史的資料がある程度判明していることから、現在日本で唯一予知の可能性が高いとされている地震です。
 東海地震予知のため、 気象庁が東海地震の常時監視網として東海地方に設置している観測機器類は約490。そのうち地殻変動を測定する歪計が約50、伸縮計が約10、傾斜計が約50。その観測データを気象庁に集中テレメータすることにより、24時間体制で前兆現象の監視を行っています。 観測データは、気象庁の施設のものだけでなく、東京大学、名古屋大学、国土地理院、防災科学技術研究所、産業総合研究所、海上保安庁、静岡県からも提供されています。
 近い将来、発生が懸念される東海地震災害を防止するために、大規模地震対策特別措置法が制定されました。しかし、この駿河トラフの延長線上の南海トラフでは過去繰り返し東南海・南海地震と東海地震が連続又は、1707年の宝永地震のように同時に巨大地震が発生することが多く、連続巨大地震発生対策を盛り込んだ国の対策及び地域防災対策の見直しが急務です。
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東海・東南海・南海地震、それぞれの被害想定(最大値)
東海、東南海、南海地震、地震三兄弟が同時発生すると、最悪24,700人死亡 

 中央防災会議の「東南海・南海地震に関する専門調査会」は平成15年9月17日、「東海」「東南海」「南海」の3地震が同時発生した場合の被害想定を公表した。発生時刻などで被害状況は変わるものの、最悪の場合、死者は約2万4700人、震度7の激しい揺れや10メートルを超える津波で約96万棟の住宅などが全壊、経済被害は約81兆円に達するとしている。同調査会が4月に発表した東南海・南海地震被害想定も一部見直しが図られた。東南海・南海地震被害想定 
専門調査会によると、1605年の「慶長地震」、1707年の「宝永地震」は、3地震が連動して発生し、1854年の安政東海地震安政南海地震では二つの地震が連続して発生している。このため、三つの地震が同時に発生した場合の被害想定をまとめた。東南海・南海地震の想定震源域
想定では、マグニチュード(M)は8・7。神奈川県から宮崎県までの範囲で震度6弱以上の揺れに見舞われ、高知県などには10メートルを超える大津波が押し寄せるという。
「午前5時」「正午」「午後6時」という発生時刻別の試算では、死者数は多くの人々が寝ている午前5時が最悪。建物倒壊で約1万2200人、津波で約1万2700人、斜面崩壊で約2600人、火災で約900人が死亡するとした。
ただし、津波については揺れに見舞われてから5分以内に高台などに避難すれば、犠牲者は約2000人は減らせるとしている。こうした地震はいつ突発的ニ起きても不思議ではないといわれている。家庭、地域、行政、企業は、事前に防災研修会などを行うと共に、直ちに防災マニュアルを見直し、対策を強化すべきである。


(東海地震と東南海、南海地震について)(阪神大震災の教訓)(過去の東海、南海地震)(東海地震対策専門調査会)
稲むらの火)(東南海、南海地震)(奥尻島の津波被害(東海地震の被害想定)(東海地震対策大綱(平成15年5月29日)

東海地震の想定震源域(青い線で囲った箇所)と震度予想
  

大規模地震特別措置法とは?
 昭和53年(1978年)、東海地震を予知し、地震による災害を防止・軽減することを目的とした「大規模地震対策特別措置法」(大規模地震対策特別措置法(昭和五十三年六月十五日法律第七十三号)以下、「大震法」。)が施行されました。大震法の施行当時、考えられた震源域は、その後20数年間の地震学の進展を踏まえ、最新の地震学の知識や観測成果をすべて取り入れ、中央防災会議(議長:内閣総理大臣)の専門調査会で検討が行われた結果、震源域は従来よりも西側にずれると推定しました。それにより「震度6の弱以上になると想定される地域」及び「20分以内に3m以上の津波が襲う恐れのある地域」など強化地域(地震防災対策強化地域)及び震源域などの見直しを行いました。(平成14年4月24日内閣府公示)。大震法では、地震による災害防止対策の推進、地震予知にかかわる観測体制と、観測機器に異常を感知した場合の予知判定体制、そして警戒宣言の発令方法と同時に、災害を最小限度にとどめるための規制方法などを定めています。関連法「災害対策基本法

強化地域とは?
 万一東海地震が発生すると、その周囲の広い範囲で大きな被害が生じると予想されます。そこで、東海地震発生によって著しい被害が予想される地域が、大震法により「地震防災対策強化地域」として指定され、数々の防災対策の強化が図られています。平成14年4月24日内閣府公示で見直された新しい地震防災対策強化地域は96市町村が追加されました。(静岡県全域と東京都・神奈川・山梨・長野・岐阜・愛知・三重の各県にまたがる下記の263市町村)です。
強化地域図

判定会召集・警戒宣言発令
 東海地震を想定して、駿河湾及びその周辺に設置された多数の観測機器情報は24時間体制で気象庁に集約され、一定の異常を感知したとき、予め定められた東海地震予知判定会が緊急招集され、地震発生の恐れが高いか低いかを判定いたします。地震発生の恐れが高いと判定された場合は、気象庁長官を通じて内閣総理大臣に報告され、内閣総理大臣名で「警戒宣言」が発せられます。マスコミや関係機関には「予知判定会招集」時点で公表されます(但し予知判定会が招集されると必ず警戒宣言発令とは限りません)。警戒宣言発令と同時に、マスコミは臨時ニュースを流し、交通規制をはじめ強化地域及び周辺地域には様々な規制が行われます。警戒宣言が出されるのは、現在のところ東海地震だけで他の地震に関しては、予知体制が進んでいないため、警戒宣言が出されず、突発的に地震が襲ってくることを想定して対策する必要があります。
2003年7月28日中央防災会議は防災基本計画を見直し、地震の予兆を捉えた場合、発生の切迫性に応じて「観測情報」「注意情報」「予知情報」という3段階の地震情報を公表することを決め、2004年1月から実施する。警戒宣言までの流れは下図のようになる。
観測情報  注意情報   予知判定会召集  予知情報  警戒宣言
 平成15年5月に決定された「東海地震対策大綱」に基づき、中央防災会議は地震防災基本計画を見直した。
東海地方に設置された地殻の伸び縮みを検出する「ひずみ計」19ヶ所のうち、一ヶ所で東海地震の予兆の可能性のある異常を観測した場合「観測情報」を、二ヶ所に増えた段階で「注意情報」、三ヶ所以上になった時点で「判定会」を開催し、判定会で「発生の可能性がある」と判定した段階で「予知情報」を発信し、首相が警戒宣言を発令する。
 「観測情報」では、自治体などの防災機関は情報収集や連絡体制を強化する。「注意情報」で学校の児童の帰宅や旅行自粛の呼びかけ、救急や消防、医療関係者らの派遣準備や物資の点検などを始める。
これまでは、地震発生の可能性が高くなった段階で、防災機関の職員を緊急に呼び出すなどする「判定会招集連絡報」があったが、交通規制などを行う「警戒宣言〉発令するまでは、住民の避難などの防災活動を始める仕組みになっていなかった。気象庁によると、技術的に「注意報」は最も早い場合で地震発生の半日前に出せるが、発生直前の場合もある。情報を出せるのは地震発生直前にプレート境界のすべり現象が観測網で捉えられた場合に限るので、突発的に地震が発生することも考えられる。

警戒宣言が発令されると・・・
 予知判定会からの報告を受けた内閣総理大臣は、大規模な地震が起きる恐れがある場合、警戒宣言を発し、住民等に対して警戒態勢を取るように呼びかけます。警戒宣言が発令された場合、強化地域内の原則的対応措置(市町村によっては多少違いがあります)
1、電気・ガス・水道:供給するが、できるだけ使用しないように呼びかける
2、ライフライン:原則として供給し続ける。
3、NTTなどの電話は:通話規制を行う可能性がある(青・黄の公衆電話・防災用電話は確保される)
4、鉄道:強化地域内は最寄の安全な駅に停車後運行停止、強化地域外からの進入禁止。
5、バス・タクシー:原則として運行停止
6、道路:強化地域内の進入を制限、避難路、緊急輸送路では交通規制、または制限減速運転(一般20Km,高速40Km)
7、銀行・郵便局・劇場など:ATMを除き原則として営業停止
8、デパート・スーパー:買い物客を外に誘導し、原則として営業中止。ただし耐震性の確保された店は極力継続営業
9、病院:原則として外来診療中止
10、学校:原則閉鎖、学童は原則的に保護者に引渡す
(警戒宣言発令時の対応は企業や事業所によって個々に異なります、対象区域の事業所にお問い合わせください)
今後東海地震防災対策大綱に基づき、より現実的な防災推進策を国が示すことになっている。

企業の防災計画、災害対策の見直しが不可欠
 従来、東海、東南海・南海地震が個別に発生することを前提としていたが、今後、地方自治体、事業所等は二つの地震及び三つの地震が突発的に、同時又は連続発生を前提とした防災計画策定が急務となる。そのためにはまず、市民、職員、社員への防災教育、意識啓発を優先して実施する必要がある。
人は石垣人は城
このような重要な情報が公表された以上、直ちに企業も防災研修会を開き、災害に関わる知識と情報の共有、一人一人の防災マインド啓発、危機管理ベクトルを合わせることが急務である。そして、発表された被害想定などに基づき防災マニュアル(計画)の抜本的見直しが不可欠。|防災マニュアル防災研修
以前は市民のパニックを招くからと、行政は得られた情報を秘匿したり、小出しするきらいがあったが、最悪を想定し、三つの地震の同時発生被害想定、推進地域などを公表したことは評価される。その一方で地方公共団体、企業などは公表された情報に基づく防災計画の見直しや適切な防災対策を怠って被害や二次災害を発生させれば、その責任を問われることになる。
複雑な国の地震防災対策が混乱を招く
 地震が発生したとき、著しい災害が想定される地域を、東海地震では「強化地域」、東南海・南海地震では「推進地域」の名称で指定している。両地域にダブって指定されている地域は名古屋市など110市町村に上る。東海地震は「大規模地震対策特別措置法」、東南海・南海地震は「東南海・南海地震に関わる防災対策特別措置法」と別々の法律に基づいている。それぞれの想定地震ごとに「専門委員会」が設置され、それぞれに「被害想定」「対策大綱」「応急対策要領」などが定められ、自治体や事業所にはそれぞれの地震を想定した防災計画策定が要求される。その多くは共通事項が多く個別に策定する意味を持たない。こうした複雑な国の防災対策は自治体業務をことさら煩雑化し、市民の防災対策にも混乱を生じる恐れがある。
相関関係にある三地震対策を統合すべき
東海地震、東南海地震、南海地震は同時、または連続して発生するという相関関係にあることは、白鳳地震(684年)、仁和地震(887年)、慶長地震(1605年)、宝永地震(1707年)、安政東海・南海地震(1854年)など、過去発生した数々の地震が証明している。学会でも東海地震と南海地震が同時または連続して発生する可能性が高いことが通説となっている。中央防災会議も平成15年9月17日、三つの地震が同時に発生した場合の被害想定を発表していることを考えると、将来さらに「三つの地震同時発生想定」の法令や対策が策定される可能性が高い。
三地震の相関性を認知するのであれば、個々の法律、個々の地震防災対策を一元化し、統合するべきである。防災対策は最悪に備えるのが基本である。単独地震発生想定の防災計画では同時巨大地震発生には対応できない。単独地震発生と異なるのは、被災地域が広範にわたるため、救援隊・緊急物資の不足、広範囲のライフライン長期断絶、道路・交通機関網の長期途絶などが予想されるので、最悪を想定した自己完結型の防災対策が望まれる。国の地震防災対策は、個々の法律策定のプロセスやしがらみに捉われず、国民が理解しやすいシンプルで実践的なものに直ちに改定すべきである。
地震対策は直前予知ができない事を前提にすべし
 昭和53年(1978年)6月15日に公布された「大規模地震防災対策特別措置法」で、東海地震だけは発生の数時間から数日以内に予知でき、それを前提に「注意情報」「予知情報」「警戒宣言」を発令する仕組みとなっている。
最近では、一部で予知できないこともあり得るとして中央防災会議は一部大綱等で計画の見直しを図ったが、一般市民は警戒宣言発令後に地震が発生するものと思い込んでいる人が多い。しかし、東海地震は本当に予知できるのだろうか、私は極めて困難だと考えている。
東海地震が予知できる可能性があるとする根拠は、東京帝国大学地震学教室の今村明恒主任教授が行っていた静岡県掛川市〜御前崎間の水準測量から始まった。今村教授は、宝永、安政地震など、この地域で発生する巨大地震の予知を試みた人である。その測量を開始したのがちょうど昭和の東南海地震(1944年)が発生する一ヶ月前であった。地震発生当日も測量を行っていて、この時の測量結果から、地震前日から当日にかけて地震発生時とおなじように御前崎の方が持ち上がる動きが確認できた。もしも、このような動きが次の東海地震の前に現れれば、現代の観測機器なら確実にとらえられるに違いない。という考えが基本となって現代の東海地震予知体制がつくられたのである。
岩石実験や地震発生理論では、大地震の前に岩盤がゆっくりとずれ始めることが分かってはいる。しかし、昭和の東南海地震の直前に御前崎の方が約20mm程度持ち上がったその一事だけを根拠として、今後の東海地震が予知できるとするのはいかがなものか?。もちろん、観測機器を埋設して研究を続けることは重要だと思うが、過去の一つの地震事例だけで地震予知の根拠とするのは、あまりにも短絡的であると思う。
それにより、市民や行政は警戒宣言が発令されたら?に防災対策の力点が置かれ、突発的地震発生時対策だけをとる場合と比較して、防災体制が分散されてしまう懸念がある。政府は今からでも遅くはない、東海地震は予知できたら儲けもののつもりで、原則は予知できないことを前提にした防災対策に切り替えるべきと考える。
なぜならば、予知を前提としたこの法律制定後26年、この間に発生した大地震(北海道南西沖地震、鳥取県西部地震、芸予地震、宮城県北部地震、十勝沖地震)は、どれ一つ予知できていないからである。法律で定める以上、もっとしっかりとした根拠によるべきではなかろうか。そうしないと膨大な予算の無駄遣いと現場の混乱を更に続けることになる。


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