山村武彦の提言(更新:2011年1月25日)・最新提言:近助の精神(2009年1月1日)

提言0、被害想定における経済損失額の10分の1を事前の防災対策に!
 
阪神・淡路大震災(1995)の経済損失額は約11兆円、新潟県中越地震(2004)では3.3兆円でした。しかし、今後30年以内に高い確率で発生するとされる地震に関し、中央防災会議(議長:内閣総理大臣)が発表している被害想定では膨大な経済損失が想定されています。例えば、首都直下地震で114兆円、東海・東南海・南海地震87兆円、上町断層帯地震74兆円、名古屋直下地震33兆円で、合計308兆円。つまり、国では向こう30年以内に地震で308兆円の被害を想定しているのです。国家予算85兆円から見ても膨大な損失であることが分かります。人的被害は7万7000人〜10万人が死亡と想定しています。人口減少を憂う我が国にとって、10万人死亡は看過してはならない由々しき事態です。このように膨大な損失と多数の国民の生命を失うとしていながら、それを防ぐための施策がなんら行われていないのが現実です。手をこまねいていれば、日本は災害による国家の経済破綻さえ容易に想定されます。
 そこで提案です。災害による損失想定額の10分の1を事前に投入すれば、損失や被害を100分の1に減らすことができるといわれています。今こそ国は、安全・安心社会構築のために事前防災対策を行うべきであると思います。少なくとも5カ年で30兆円を投資し、日本の安全度を飛躍的に高まめることを提案します。それによって真の「安全大国」となると信じます。

提言1、「全国被災者支援共済」制度の制定
 
世界最大の大陸と世界最大の海に挟まれ、台風、水害、土砂災害、地震、津波、噴火災害に繰り返し襲われる災害列島日本。一所懸命生きてきた人が、まじめに働きまじめに税金を納めてきた人が、ある日突然災害難民になってしまうのです。とくに年金生活者など低所得者たちは住宅再建などままならず、絶望のどん底に落とさされ、応急仮設住宅で孤独死か自殺するケースが多く見られます。災害発生時、全国から寄せられる善意の義捐金も、災害のタイミングや規模によって分配される金額は異なり、被災者数が多いと小額の配分でしかありません。自然災害による被災は自己責任の範疇をはるかに超え、個人の努力で生活再建を果たすことはきわめて困難なのです。
 かといって厳しい経済環境の中で高額掛け金の地震保険や災害保険に全国民が加入することは不可能です。また、政府の「被災者生活再建支援法」では様々な支給条件があり、全ての人を対象としていません。そこで私は全国・全世帯を対象にした「全国被災者支援共済制度」制定を提言します。
 阪神・淡路大震災を経験した兵庫県では、平成17年9月から「兵庫県住宅再建共済制度・フェニックス共済」を発足させています。この制度は、年間5,000円の掛け金で、地震などにより全壊した住宅を建替える場合600万円が支払われる仕組みです。しかし、この制度は兵庫県民とその住宅所有者だけが対象です。
 提言する「全国被災者支援共済制度」は、高齢者、母子家庭、障がい者など低所得者に配慮した思い遣り掛け金とし、災害によって被災した家庭に住宅再建費用及び借家人等の住宅確保費用、生活再建支援費用を無条件に定額支払う共済制度です。国がその仕組みを作り一定額以上は地震保険のように国が補填バックアップするようにします。全国の主な世帯が加入すれば、兵庫県の制度より加入者有利の条件が可能といわれています。耐震住宅の場合は掛け金を割引することも可能です。
 災害国日本だからこそ、不条理な災害に対しての実践的対策が重要だと思います。「一人はみんなのために、みんなは一人のために」が、災害列島日本に住む作法だと思います。
提言2、「非常用備蓄条例」の制定
 スイス連邦政府が発行する民間防衛という小冊子には「ハチミツはいつも流れ出しているとは限らない」という言葉で、生活用品の非常用備蓄(米、小麦粉から石鹸に至るまで)をするよう市民に義務付けています。備蓄の目安は2か月分として、備蓄条例が定められています。スイスは生活用品を含む消費財の50%以上が輸入に依存している国です。「連邦と国民の自由を脅かそうとする不条理な要求を断固拒否するために」輸入制限などの脅迫や脅威に備える備蓄なのです。
 日本の場合はもっと深刻です。食料自給率は40%(平成17年・カロリーベース)、つまり60%を輸入に頼っているのです。そして、災害が多発しているにもかかわらず、水・食料備蓄量は3日分というなんの根拠もない、そして極めて危機感のない自治体の指導です。その3日分でさえ備蓄している家庭は20%以下という状態です。例えば新型鳥インフルエンザが進行し人から人の段階に入った場合、SARS(重症急性呼吸器症候群)が伝播し始めたとき、湾岸又は近隣で戦争などが発生したとき、流通は混乱し水食料や日用品が手に入りにくくなると同時に、外出制限(禁止)措置がとられる可能性があります。
 食料・エネルギーの大半を他国に頼るということは、国民の生殺与奪権を他国に握られることになり、不当な要求や圧力に屈しなければならなくなってしまいます。食糧・エネルギー安全保障という考えからすると、日本ほど無防備な国はないと思います。テロリストが標的とするのは、小さな攻撃で大きなパニックが起こせる相手です。バイオテロや原発ジャックなどによる卑劣なテロリストの要求を断固拒否するためにも、第三次オイルショックや大規模災害に備えるためにも、国を挙げて非常事態に備えた備蓄が急務です。
 そこで、私は家庭、事業所、自治体が平均10日〜2ヶ月程度は、輸入や流通が途絶えても耐えられるよう段階的にでも備蓄を推進することが重要と思います。そして、それを義務付けるため「非常用品備蓄条例」の制定を提言します。その上で、災害が発生した場合、無事だった近くの人たちや企業が備蓄を放出して助け合う体制を創ることが、国の防災力・危機管理対応力を向上させることになると思うのです。
提言3、消防用設備等の耐震強化
 2007年7月16日に発生した平成19年新潟県中越沖地震では、東京電力柏崎刈羽原発内のトランスから火災が発生しました。消防法に基づき消火栓や泡消火装置などが技術基準どおりに設置されていましたが、地震による損傷で使用不能だったと伝えられています。過去にもこうした消防用設備等が地震で損壊し施設が使用不能となったことが多々ありました。
 例えば1994年北海道東方沖地震で新築の根室市総合文化会館は、スプリンクラー消火設備が損傷し館内水浸しで使用不能となりました。グアム島地震や阪神・淡路大震災でも、火災などで活躍すべき消防用設備が仇となって被害を大きくしてしまった事例が多発しています。
 消防法にも「耐震措置」を施すこととはなっていますが、具体的技術基準が規定されていません。消防用設備等ほど耐震化を強化すべきです。阪神・淡路大震災発生時、地震直後の神戸で消火栓が損壊し使用不能になりました。火事場で水の出ない筒先を持ったまま無念の涙を流す若い消防士の姿は二度と見たくないのです。地震国日本であればこその耐震基準を強化するための消防法改正を急ぐべきです。
提言4、「災害難民の日」の制定
 大規模地震が発生するたびに住宅の耐震化が一向に進まないことが話題になります。その大きな要因は、経済的な問題と国民の防災・危機意識の低さにあると思います。経済面でいえば、従来自治体が進めてきた程度の耐震改修補助金では個人の負担が重く耐震化が進むわけはありません。災害が発生した後の膨大な復旧予算を考えれば、事前に復旧(耐震化)予算を国が投入し、インセンティブを高めることが重要です。
 また、自分だけは大丈夫と思っている危機意識を高めるためには、災害やインフラ断絶により発生する不自由な生活を体感することが大切です。ですから、年に一度でも電気、水道、ガス、電話や公共交通機関を停めて防災訓練を行うべきと思います。当然、混乱や連鎖被害を防ぐために、病院や高齢者などに配慮した徹底した事前準備の上で行うこと、それが災害時要援護者対策にも役立つと思います。無駄に使っていた水道や電気のありがたさや節約の大切さ、近隣の助け合いの必要性などが再確認できるのではないでしょうか。自治体単位、地域単位からでも「災害難民の日」制定を図るべきです。
提言5、「全国地震防災対策法(恒久法)」の制定
 現在地震防災対策に関わる特措法は三つあります。東海地震を想定した「大規模地震対策特別措置法」をはじめ、「東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」、「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」です。すべて太平洋沿岸地震を想定した特措法で、日本海側や内陸部の断層直下地震などを対象とした特措法はひとつもありません。
 しかし、このところ発生している平成16年新潟県中越地震、平成17年の福岡県西方沖地震、平成19年能登半島地震、平成19年新潟県中越沖地震と日本海側及び内陸部の地震です。そうした地震が発生するたびに想定外とか、未知の断層とか報道されるほど次に発生する地域や規模を特定できないのが現状なのです。
 にもかかわらず、これまでは一部の学説・仮説を根拠として特定地域だけに特措法が制定されてきました。結果として自治体や国民に対し「特措法対象地域以外は安全」という誤ったメッセージを発信し続けていることになってしまいました。特措法が制定され強化地域、推進地域に指定されると、指定地域自治体には国から防災対策推進のための財政措置(支援)、助成措置が講じられます。財政危機が常態化している昨今、その地区には有力政治家がいたから特措法が制定されたというまことしやかな噂話も聴きます。
 日本中安全な場所などなく、いつどこでも地震が発生しても不思議のないのです。従来の特措法を統合改訂し、一過性の法律ではなく全国を網羅した「全国地震防災対策法(恒久法)」制定を提言します。そして全国の自治体で防災対策推進が図られるよう、国は地方に必要な財政措置を講じることが焦眉の急と思います。



提言6、地震防災戦略「減災」を「除災」へ
 平成17年3月30日に開催された中央防災会議において、東海地震及び東南海・南海地震の地震防災戦略が決定されました。これは想定される地震に対し計算された想定被害(死者数・経済被害額)数値を、今後10年間で半減させることを目標とするというものです。たとえば、東海地震が発生した場合、死者は9,200人と想定されています。それを今後10年間で「減災」運動を進め、死者を約4,500人に減らすというのです。つまり、このままだと家族が4人死ぬから向こう10年間で2人死ぬようにするという戦略と受け取れます。。
 元々東海地震、東南海・南海地震の想定規模や発生確率は限られたデータから割り出した推定仮説です。その仮説の上に推定条件で計算された数値が被害想定という仮説です。仮説の上に重ねた仮説数値、それを半減させるというマスターベーション的発想は、防災対策と国民のかけがえのない命をゲーム化しているとしか思えません。もちろん私も東海、東南海・南海地震はいずれ発生すると思います。そして、最悪を想定すればもっと被害は大きくなるかも知れません。

しかし、どんな地震でも家族が半分死んで良いわけではありません。半分死んでも仕方がないというような目標設定は、冷血な暴論というべきではないでしょうか。
中央防災会議がj果たしてきたこれまでの活動、実績は評価されるべきですが、今回のようなつじつま合わせ的「減災」戦略はいかがなものか。一般市民の視点が欠けているように思います。
私はどんな地震が発生しようとも、死者ゼロを目指すための事前防災対策を優先推進する「除災」国民運動の推進を提言します。その第一歩は、ハードやシステムなどの箱モノを造るよりも、国民1人ひとりの実践的防災意識啓発、防災民度向上にこそコストとエネルギーを傾注すべきだと思うのです。

提言7、災害前復興住宅の建設・収容
 大規模地震対策の決め手は住宅の耐震化といわれます。しかし、耐震性の低い住宅の大半は高齢者の住宅なのです。仮に耐震性が低いと診断され、耐震改修をしようとしても自治体の補助制度は自己資金を補うものでしかありません。年金生活者に改修資金の調達は困難です。にも関わらず、住宅の耐震化が進まないのは、そうした人たちの防災意識欠如が原因などという人がいますが、阪神・淡路大震災、中越沖地震などで倒壊家屋の下敷きになって命を落とした人の大半は耐震改修をしたくてもできない高齢者たちだったのです。
 そこで私は国が「災害前復興住宅」を建設し、大規模地震発生前にそうした人たちをきちんと収容すべきと思います。
 災害列島・高齢化社会で大切なのは、耐震性の低い住宅に住んでいて耐震改修をしたくてもできない人たちを放置し見殺しにすることではありませんし、災害後に復興住宅を建築して収用するという事後対策型施策でもないのです。もし、政府に「愛国民心」があるのでしたら、真の事前対策とは何かを実践的に検証し推進することが重要だと思うのです。
提言8、セルフディフェンス「防災ピア・サポーター」の推進を急げ
 阪神・淡路大震災で約35,000人の自力脱出困難者(逃げ遅れた人)の77%を救出したのは近隣住民でした。そして、犠牲者の96%は地震発生後約14分以内に死亡したと推定されています。つまり、早く助けなければ助からないということです。
 災害発生時、住民を助けることができるのは向こう三軒両隣の近隣住民なのです。仲間(ピア)を助けるのは仲間(ピア)なのです。同じ時代、同じ国、同じ地域に住む人たち、家族と向こう三軒両隣こそ共に助け合うべき(隣保互助)かけがいのない仲間です。そこに災害時要援護者がいればなおのこと手を貸しましょう、いずれ年を取れば誰でも災害時要援護者になるのですから。
 家や室内の耐震化、非常用備蓄、防災訓練も自分だけでやろうと思っても進みませんし長続きしません。しかし、向こう三軒両隣で声を掛け合い、助け合えれば推進しやすいというものです。災害が起こる前に向こう三軒両隣でこうした「防災ピア・サポーター」制度をつくっておくことが重要なのです。それが災害列島日本に住む作法なのです。
文責:山村武彦